前回の信号発生器に続き、小型ガジェットの製作記事です。(製作と言ってもケースに入れただけ?)
今回は、市販のパワーメータをケースに入れ、充電機能を持たせて使いやすくします。
また、どの程度使える器材なのかを簡単に検証してみます。
同じケースを使った、Pa-Lab (パオさん・ラボ)シリーズの製作記事は、以下をご覧ください。
RF-8000
今回使用する RF パワーメータは、AliExpress で購入した「RF-8000」という型番のものです。(購入時の価格は3千円程度でした。)
(RF-8000 の写真は、販売店の HP より引用)

このパワーメータの性能は、販売店の HP によれば、
・測定周波数範囲: 1 MHz – 8 GHz
・測定電力範囲: -45 〜 -5 dBm
・測定解像度(最小目盛):0.1 dBm
・測定誤差:± 1 dBm 以下
・電源: 5 VDC、50 mA 以下
ということです。
本体はアクリル板で出来た簡易ケースに入っていて、プリント基板が2階建てで構成されています。
上側がデジタル制御・表示部で、0.96 インチ 128 X 64 ピクセルの OLED に
1行目:周波数(Hz)
2行目:レベル(dBm)
3行目:振幅(mVp-p)
4行目:オフセット(dBm)
が表示されます。
下側のプリント基板は RF 計測用のアナログ基板です。
中央には RF シールドがかぶさっているので、使用している IC など内部の回路は見ることが出来ません。
これらの基板をつないでいるのは2本の線ですが、1本は + 5 V、もう1本はグランド線ではなく信号線です。グランドは金属製の4本のポストが構造材を兼ねています。
操作方法
操作方法は、少しクセがあります。
まず、電源を入れてもカッコいいロゴが出るだけです。
いくら良い子で待っていても、上の画面の様な計測画面になりません。
1 中央の「OK」キーを押します。
2 必要に応じてキーで周波数を設定します。(左右でカーソル移動、上下で値の増減、決定は中央キー)
3 信頼できる信号源があれば、オフセットを調整します。
4 SMA コネクタに信号源をつなぎます。電力は自動で計測されます。
RF-8000 は、販売店の性能表では最大入力が「-5 dBm」です。通常はそれ以上の出力を計測すると思うので、アッテネータで減衰して入力します。
ケース用の使用部品
アクリルの簡易ケースを分解して携帯型計測器に仕上げるために、以下で紹介した部品を追加しました。
アナログ基板の入力に RF ケーブルを追加したほうが、ケース内の取り回しは楽になるのですが、計測誤差を減らすためにアナログ基板の SMA 端子を直接出す形にしました。
1 電源スイッチ
aitendo で購入した小型のロッカースイッチです。(写真は aitendo より引用)
横幅が通常のロッカースイッチよりかなり小さく 19 mm ほどなので、今回のような小型のケースに良い感じです。
型番:KCD1-101-1R

2 電源コネクタ
USB Type-C のコネクタは AliExpress で購入しました。
今回は今まで使っていた Type-C 型だけれど出力線が電源の2本だけのコネクタではなく、「D+, D-」端子が付いたコネクタを使います。
今後、自宅では積極的に USB PD 電源を使っていきたいのですが、2線式のコネクタでは電圧が取れません。
しかし、「D+, D-」端子が付いていれば、ここを(両方) 5.1 kΩでプルダウンすると +5 V が取り出せるはずです。(今回は試験していません。)

3 リチウムイオン充電池ユニット
3D プリンタで作ったケースに充電回路基板と 5 V 昇圧回路を入れたものをユニット化して使います。
3D の元データは、Thingiverse の「18650 holder charger/powerbank」です。(少し改造しています。)
充電池に「18650」サイズを使ったものは沢山ありましたが、今回使うセリアのケースに余裕で入る物を探しました。

4 ケース下部
ケース下部は、Pa-Lab シリーズで共通で使用している100均の「マグネットポケット 小物ケース」です。
私はセリアで購入しました。(ダイソーでは見かけませんでした。)

ケースの製作
いつものように 3D プリンタでケースを作ります。
今回もサイズ的にセリアの入れ物に収まるので、Pa-Lab シリーズとして仕上げます。
Fusion で 3D データを作ります。
今までの Pa-Lab シリーズのデータがあるので、フタ部分の設計はすぐに出来ましたが、RF コネクタやスイッチなどの細かな位置の調整に時間がかかりました。

試作品が何枚かできました。
これは、スイッチの位置が微妙に合わなかったのを調整したのが主な原因です。

おかげで、取り付ける位置がピッタリに出来たので、良い感じに仕上がりました。
今回は、基板の固定にヘックスで黒色のネジを使ってカッコよく仕上げてみました。
(でも、4つのタクト・スイッチがそのまま見えているので、改善したいです。)
セリアのケースを加工
セリアのケースに USB 端子と充電池ユニットを固定する穴を開けます。
最後に、フタを固定する4個の穴を側面に開ければ加工は終了です。
この、セリアのケースは柔らかめのプラ製なので、穴あけなどの加工は楽です。
組み立て
まず、2枚の基板を分解すると配線が分離してしまうので、電源2本と信号線を追加します。
次に、USB 端子と充電池ユニットを収納します。充電池ユニットからは、スイッチへの配線と + 5 V の出力線を付けておきます。

そして最後に、フタ部分に RF-8000 と電源スイッチを取り付けます。

性能確認
本来ならば「校正」を行いたいところですが、正確な出力が出せる信号発生器などは持っていないので、手持ちの部品で出来る性能確認方法を考えます。
信号源
信号源には、HP 社のパワーメータ 435B を処分する時に取っておいた、部品「A3 Power Reference Assembly」を使ってみます。(435B を処分しなけりゃ良かったじゃない?と言われそうですが、ジャンクな本体だけで、センサ部とケーブルを持っていなかったので、タダの箱でした。)

このユニットは 435B の後部に組み込まれていて、オシロスコープのテスト信号のようにパワーメータの試験信号を出力できます。
入力に ±12 V (16 mA)を与えると、50 MHz、1 mW(±0.7%)が出力されます。

このユニットは周波数とレベルの調整か所がありますが、本体の校正もユニット自体のレベル調整も何年もされていないので、現在は信頼できる校正源ではありませんが、アマチュアの私が何かの回路を自作するよりは何倍も正確だと思います。
信号の測定
早速、ケース入れが済んだパワーメータの性能確認を行ってみます。
パワーメータに内蔵されている充電池は充電しておいたので、電源スイッチを入れると動作します。(電源線がないので、すごく便利です。)
パワーメータの電源を入れたら、中央の「OK」スイッチを押します。
次に、左右キーと上下キーで周波数を 50 MHz に合わせて「OK」で決定します。
435B の「A3 ユニット」には、自作のトラッキング電源から ± 12 V を供給します。
これで「A3 ユニット」の出力には、1 mW(0 dBm)が出ているはずです。

このままでは、パワーメータの最大入力値 -5 dBm を超えてしまうので、自宅にある中で一番信頼できそうな – 6 dB のアッテネータ(Tektronix 015-1001-00)を接続します。
これで、パワーメータの入力レベルは – 6 dBm になるはずです。

テスト信号(0 dBm)を測定してみると少し大きく出ました。
約 1 dBm ほど大きい値が表示されたので、「Level」がちょうど -6.0 dBm になるように、パワーメータのオフセットを「-0. 9 dBm」に調整しました。

テスト信号の波形の確認
「A3 モジュール」から出力される波形を、オシロスコープで確認しておきます。
周波数は 50 MHz を表示していますが、校正されていないフィードスルー・ターミネータで 50Ωに変換しているためか、入力レベルは 681 mVpp になっています。
インピーダンスが 50Ω なら、計算上は 632 mVpp になるはずなので少し高いですね。( 50 mV 位なら、オシロスコープの計測機能なので誤差範囲ですか。)
そう言えば、このオシロスコープ(SDS804X)の導入の際に、DC 電圧を測定した時の誤差は +30 mV 程度でした。

ステップ・アッテネータで確認
市販品ではありませんが、抵抗とスイッチで作られたステップ・アッテネータをつないで確認してみます。
このステップ・アッテネータは、JE3JBL さんから購入したキットです。(自分で作れなくはないのですが、きれいなパネルが付属するのを見て購入しました。)
このアッテネータのケースは、3D プリンタで作ったオリジナルです。

基準信号発生器「A3 モジュール」の出力に -6 dBm のアッテネータを付けて、その先にこのステップアッテネータをつなぎパワーメータの入力に入れました。
この状態で -6 dBm になるようにオフセットを設定します。

ステップ・アッテネータの 3 dBm を ON にします。
ピッタリと -9 dBm を表示しました。

写真が多くなりすぎるので省略しましたが、
6 dB ON:-12.3 dBm
10 dB ON:-15.9 dBm
20 dB ON:-26.4 dBm
を表示しました。
他の測定結果
ポーランドのアマチュア・マイクロ波フォーラムの掲示板で「SQ1GQC」さんが、このパワーメータを信頼できる計測器で試験されて、その結果を公開しています。
信号源としてローデ・シュワルツ社の「SMU200A vector signal generator」、出力計測用に「NRP-Z22 ミリワットメータ」を使用しています。


各周波数ごとに測定したレベルは、-5 dBm、-15dBm、-25dBm、-35dBm、-45dBm、-50dBm の6か所です。
下の表の「平均誤差」は元データにない計算値ですが、1つの表にまとめるためにレベルを変えて計測した6か所の値を単純に平均したものです。(詳細なデータはリンク先をご覧ください。)
周波数(MHz) | 平均誤差(dBm) |
50 | 0.2 |
144 | 0.15 |
432 | 0.17 |
1296 | 0.77 |
2320 | 0.9 |
3400 | 2.2 |
5760 | 0.5 |
この計測結果を見る限り、1 GHz 帯以以下では思ったよりも誤差が少ないですね。
3.4 GHz 帯だけが誤差が大きいですが、例えば、それぞれの周波数で計測する前にオフセットを取ったとします。
今回は、3.4 GHz でオフセットを -2.0 dBm に設定すると、
減衰値(dBm) | オリジナル誤差 | オフセット -2.0 |
-5 | -1.7 | +0.3 |
-15 | -1.8 | +0.2 |
-25 | -2.0 | 0 |
-35 | -2.3 | -0.3 |
-45 | -2.7 | -0.7 |
-50 | -2.8 | -0.8 |
平均誤差が 0.2 dBm となります。
これなら、アマチュア的には十分な性能だと感じました。
(何か私の理解が、大きく間違っている気もしますが・・・)
次回の予定
今回ケースに入れたパワーメータ(RF-8000)のアナログ部分は、AliExpress で発売している アナログ・デバイセズ社の AD8318 ログ検出器「評価基板」と外観がそっくりです。(シルクの文字が少し違うだけで、多分、同じものですね。)


そこで、次回はこのパワーメータのアナログ部に付いている金属製のシールドを取り外して内部の構造を確認します。
そして、使用している IC が AD8318 なら、データシートのグラフを参考に、設定した周波数で誤差を少なくするような機能を持ったものが作れないか確認します。
(Arduino を使って LCD 表示なら、私でも出来るかな?)
コメント