最新型オシロスコープの導入編

ボーナス時期にサンタさんから届いた、最新型のオシロスコープの使い方を手探りでお届けします。
入手したオシロスコープの型番は、SIGLENT SDS804X HD ですが、基本的な動作は他の同価格帯のデジタル・オシロスコープにも応用できると思います。

なお、現在入手できる色々なオシロスコープから、悩みながら SDS804X HD を選んだ細かな過程は下の記事をご覧ください。

前面パネルと後面パネルの配置

前面パネルの主な端子

・電源スイッチ
・USB端子:USBメモリ、マウス、キーボードなどが接続できます。
・拡張端子:別売のロジック・アナライザなどが接続できます。
・テスト端子:プローブの校正用です。(1 kHz)
・計測スイッチ:入力波形のデータを表示します。
・オートスイッチ:入力した波形を自動で適切な状態で表示します。
・垂直ノブ:電圧レベルを調整します。
・水平ノブ:タイミングを調整します。

後面パネルの端子

・LAN ポート:ネットワークに接続します。
・USB リモート:パソコンと接続します。
・USB ホスト:USBメモリ、マウス、キーボードなどが接続できます。
・補助出力:トリガーインジケータ、合格/不合格信号を出力します。

プローブの識別リング

基本操作に入る前に、4本付属するプローブを分かりやすいように色で識別します。
本体の入力端子とスイッチの色を見てみると、
1チャンネル:黄色
2チャンネル:ピンク
3チャンネル:青
4チャンネル:緑
に設定されているので、プローブの識別リングの色も同じ色にします。

標準の状態では、黄色の識別リングが付いています。

付属のリングはプラスチック製なので力強く開くと割れそうです。適度な力で開いてリングを外します。
付属のリングをチャンネルごとに入れ替えます。

識別リングを装着しました。(見やすくするためにグランド・ケーブルを外しています。)

各種設定

まだ、色々な機能を使いこなせていませんが、最新のデジタル・オシロスコープを購入したら、最初に行うべきなのがこの設定です。(個人の感想です。)
なお、マニュアルではこの項目は後から出てきますが、「パソコンを購入したら BIOS 設定などを最初に確認したい系の方」(私を含む)は、この設定を最初に行った方が幸せになれます。

日本語化

あらかじめお断りしておきますが、画面に表示できるの字数の制限、スイッチ表示との整合やマニュアル記載の統一化のためだと思いますが、言語設定を日本語に変更しても、表面の表示は英語のままの部分が多いです。

これ以降の操作は、画面タッチで行っています。このオシロスコープの液晶画面はタッチ式なので、指やタッチペンで操作が出来ます。
(画面の汚れが気になる方は、事前に保護シートなどを張りましょう。)

画面左上の「Utility」を押すと右側に出てくるメニューで「System Settings」を押します。
下の写真の画面にある「Langauge」の「English」の部分を押すと、各種言語が表示されるので「日本語」を選びます。
戻るには「Return」を押します。(セットした内容は保存されています。)

システム情報の確認

画面左上の「Utility」を押し「System info」を押すと各種情報が表示されます。
私のオシロスコープのソフトウエア バージョンは、少し古い「1.1.3.3」でした。
事前に確認していた最新バージョンは「1.1.3.8」だったので、この後、バージョンアップを行います。

アップグレード

SIGLENT SDS804X HD の最新のファームウエアは SIGLENT 日本法人 HP 内の「サービスとサポート」の「ファームウエア」にあります。

2024年末現在は、「1.1.3.3」、「1.1.3.6」と「1.1.3.8」があったので最新版を落としました。
このバージョンでは各種不具合の修正以外に、オプションだったロジックアナライザや信号発生器のソフトウエアなどが無料で使えるように限定解除されたようです。
と言ってもロジックアナライザ機能や信号発生器機能機能は、別売オプションを購入しないと使えません。(他社の同レベルのオシロスコープでは、上位機種しか増設端子がありませんが、SIGLENT は最安値機種でも接続端子が準備されていて良心的ですね。)

落としてきたファイル「SDS800X_HD_V1.1.3.8_EN.zip」を解凍した物(SDS800X-HD_1.1.3.8.ADS)を、中身が消えても良い USB メモリの一番上の階層に入れます。
この USB メモリをオシロスコープ正面下部分の USB ポートに差し込みます。
(裏のポートも使えると思いますが、すでに無線マウスの子機を付けたのでふさがっていました。)

Utility > Menu > Maintenance > Upgrade の順にメニューを表示させて USB メモリ内のファイルを選択します。

Upgradeをクリックしてアップグレードを行います。(多少時間がかかります。)
正常に終了した後はリブートを行います。

無事、アップグレードが終了して「1.1.3.8」になりました。

LAN 接続

LAN 接続をすると、画面のキャプチャ以外にも遠隔操作など色々な機能が使えるようになります。
(ローカルネットワークが接続できれば、隣の部屋でも波形が見られて操作が出来ます!)
凄く便利なので自宅でネットワークがつかえるなら、ぜひ導入しましょう!

このオシロスコープは、残念ながら WiFi には対応していません。LAN に接続するには LAN ケーブルが必要です。(色々な WiFi アダプタを USB ポートに接続してみましたが、設定画面が表示されないので動作しませんでした。)
本体裏側の LAN ポートにケーブルを接続します。

Utility > IO設定 > LAN接続 コンフィグ の順にメニューを表示します。

画面の「Automatic」「自動(DNS)」にチェックを入れると、自宅に LAN の設定がしてあれば自動的に「IPアドレス」が表示されます。(図のアドレスは編集しています。)

パソコンやタブレットから、インターネット・ブラウザで IP アドレス(192.168.1.10 など)にアクセスするとオシロスコープの操作画面が表示されます。(数字を入れるだけです。「/welcome」などは自動で表示されます。)

「Instrument Control」を押すと、以下の画面になります。
パソコンに波形の画像を記録するには、画面下の「Screen Shot」を押します。

この画面では、オシロスコープに接続したマウスと同じ操作が、遠隔のパソコンから行えます。
つまり、ネットにつながっていれば離れていても波形を見るだけではなく、拡大表示や分析もパソコン上で行えます。(スゴイ!)

この画面の「LAN Configuration」は文字どおり LAN の設定を、「SCPI」は専用のコマンドでオシロスコープを自動計測するのに使用します。

ネットワークの時間設定

このオシロスコープは残念ながら RTC 機能を搭載していないので、正確な時間を保持する機能はありません。(波形を見る計測器に正確な時間が必要かどうかは、意見が分かれると思いますが・・・)

しかし、LAN 接続をしておくと自動でネットワーク上の時間に合わせてくれます。
Utility > システム設定 > Date/Time を押します。

時間設定用の NTP サーバの設定は、通常は「ntp.nict.jp」などと入力しますが、このオシロスコープでは現在のところ数字でしか NTP サーバのアドレスが入力できません。
「NTP Server IP」欄を見てください。しかたがないので、非推奨ですが IP アドレスを「61.205.120.130」(「ntp.nict.jp」のIP アドレス)と数字で入力しています。

このままでは、日本時間と時差があるので「Modify Time Zone」で「Asia/Tokyo」を選びます。
(私は一度で設定が反映されなかったので、数回行いました。)

これで、オシロスコープは自動で時刻規正を行い右下に時間を表示するようになります。

基本操作

この後の操作は、基本的には通常のアナログ・オシロスコープと同様です。
このオシロスコープの操作方法(UI)は良く考えられており、操作に対する反応も早いのでストレスなく色々とイジルことが出来ました。(個人の感想です。)

電源オン

電源スイッチを押すとオシロスコープが立ち上がります。実測で30秒程度です。
電源を切るには、電源スイッチを「少し長押し」します。

プローブの接続

アナログ端子の任意の場所(通常は黄色の1チャンネルから)にプローブをつなぎます。
現在、どのチャンネルが使用可能かどうかは画面左下を見ると分かります。
この例では、チャンネル1が使用可能です。

デジタル・オシロスコープでは、チャンネル数を増やすと帯域幅などが下がるので、必要最低限のチャンネルだけを有効にすることをおススメします。
ちなみに、この部分をマウスで押すと(遠隔のパソコン上でも)表面パネルを使わなくても、右側にチャンネル1の設定画面が表示されて色々な変更が出来ます。

プローブのグランド線に付属するのは、通常のワニ口クリップのみです。付属のプローブの対応周波数が 70 MHz までなので、高周波測定用の「グランド・スプリング」は付属していません。(有名メーカの「グランド・スプリング」の定価は数千円です。高いので自作しようと考えています。)

プローブの校正

波形を測定する前には、必ずプローブの「波形のなまり」を修正します。
オシロスコープ正面パネルのテスト端子につなぎます。(向かって左が信号(Cal)、右がグランド)

必要に応じて、プローブの根元にある調整か所で修正します。
(校正の際には、プローブのオレンジ色の切り替えスイッチは X10 側にしてください。)

調整前の波形

調整後の波形

他のチャンネルも同様に校正します。
それぞれのチャンネルの波形の色は、プローブの差込口とスイッチの色と同じなので分かりやすいですね。
(2チャンネル目の例、波形の色は端子部分と同じピンク)

なお、このオシロスコープにはプローブの校正が終わったら、プローブの試験を行う機能があります。
左下のアナログ・チャンネルの情報表示部分を押すと表示される画面で「プローブ 10X」部分を押すと出てくる「Probe Check」を選択すると、自動でテスト信号端子につながったプローブの状態を評価してくれます。
残念ながら評価のみです。自動でプローブの調整まではしてくれません。
(画面は、プローブ試験中の診断画面です。)

垂直ノブと水平ノブ

デジタルモード以外では、通常のアナログ・オシロスコープと同じように電圧レベルとタイミングを調整できます。(押し込むと祖調整・微調整に切り替わります。)

必要に応じて、波形の状態を表示するためにこのノブを調整します。

オート設定

本体右上側の青い「Auto Setup」ボタンを押すと、入力信号に基づいてオシロスコープが自動的に垂直スケール、水平スケール、およびトリガーレベルを設定し、最適な波形表示を得るように調整します。

こう聞くと「AI が搭載されたような、すごく良い機能」のように聞こえますが、特殊な波形を捕まえるために時間をかけてトリガなどを良い感じに調整した後にこのボタンを押してしまうと、強制的に各種設定が切り替わってしまいます。
それを防ぐために、「Auto Setup」ボタンを押すと実行前に確認ウインドが開き、実行の許可を求められます。

計測ボタン

スイッチパネル左上の「MEASURE」ボタンを押すと、波形の振幅などの各種情報が画面下側に表示されます。

電圧測定の精度

正確な信号発生器は持っていないので、比較的安定していて正確に測定するのが簡単な DC 電圧で見てみます。

まずは電池の電圧を見てみます。
乾電池2本の出力です。
校正をしていないジャンクなマルチメータ(HP3478A 5.5桁)の値で「2.91701 V」です。

オシロスコープの計測値は小数点以下が動いていましたが、「2.94 V」位でした。

次に、保有している中で一番信頼できる電圧源を使います。
自作の定電圧・定電流源ですが、電圧には「AD584JH」というメタルパッケージで精度の高い基準電圧発生用の IC を使っています。(最大誤差が 5 V で 15 mV 以下)

この器材のケースは他の器材と統一するために、セリアで購入したマグネット付き小物整理ケースと、3D プリンタで作った表面パネルで構成されています。(ケースの詳細は、以下のリンクをご覧ください。)

マルチメータで見てみます。
出力が「5.0009 V」と表示されました。この出力をオシロスコープで見てみます。

小数点以下の値は動いていますが、「5.03 V」程度を表示しているようです。
垂直軸は十分な精度だと感じました。

周波数測定の精度

入力波形の周波数は「MEASURE」ボタンを押さなくても、画面右上の「SIGLENT」の文字の下に表示されています。
我が家で2番目に発信周波数が正確ですが、中古で校正していないルビジウムの 10 MHz を入れて表示される周波数を見てみます。(1番正確な GPS を使ったオシレータは安定するまでに1週間以上かかるので、今回はお休みです。)

右上に周波数が表示されています。
見にくいので拡大します。

「10.00009MHz」と表示されています。
90 Hz 高く表示されていますが、単体の周波数カウンタではなくオシロスコープでこの数字は、なかなかの性能ではないでしょうか?
(テクトロニクスの 2467B や 2465B で周波数を見た遠い記憶では、表示される数値は目安程度の値だった気がします。)

また、計測ボタン(スイッチパネル左上の「MEASURE」)がオンになっていると、上図のように波形から求められた周波数が表示されます。
その値は「10.001 MHz」と出ています。
こちらも十分な精度です。

次回の予定

今回は、日本語版のユーザーマニュアルを確認しながら、オシロスコープの基本操作を行いました。
出来たのは、
1 基本操作
2 本体のアップデート
3 オシロスコープ言語の日本語化
4 ネットワーク設定
5 波形・画面のキャプチャ

まだよく分かっていない操作に、画面のタッチ操作があります。
このオシロスコープは、指やマウスで色々な所をタッチして設定を変更する事が出来ます。
この機能は、LAN でリモート接続したパソコンのブラウザ上でも機能します。

さらに、マニュアルには「ドラッグ、ピンチやスプレッド」で波形のサイズなどが変更できると書かれています。
しかし、まだこの機能については、タブレットを使って何度か試してみましたが、うまく動作させることが出来ていません。
やり方が理解出来たら記事にします。

また、I2C などの波形のデジタル信号のデコードが出来るようなので、次回の課題とします。

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