周波数カウンタを作る企画の 12回目です。
今回は、製作したプリスケーラ基板の組み立て方を解説する予定でしたが、その前に調べていなかった RFC-5 周波数カウンタ基板のアンプ部分の性能を確認しておきます。
今までの各回の概略は下のとおりです。
1 siliconvalley4066 さんの「STM32F103C8T6で192MHz周波数カウンタ」を見て、この企画がスタート。TTL レベルで 66 MHzまで計測
2 市販品のアンプ(20 dBm 程度)をつないで 53 Mhz まで
3 手持ちの部品でブレッドボード上に作ったアンプで 24 MHz まで
4 自作基板でプリスケーラの機能確認(1/256、1/512)
5 おじさん工房さんの RFC-5 を組み立てる。測定周波数は ~ 1.3 GHz(プリスケーラあり)
6 RFC-5 のアンプ(120 MHz まで計測可能)と他の MCU(20 Pin)で動作確認
7 カウンタの入力を切り替える実験(40 MHz 程度までは切り替え可能)
8 RFC-5 をプリント基板化する前のアンプ類の接続方法の検討
9 RFC-5 のプリント基板の製造とオーダー
10 RFC-5 のプリント基板の動作確認が終了(測定上限周波数 190 MHz)、基板の無料配布を開始
11 RFC-5 プリント基板の組み立て方
前回で周波数カウンタを作る企画の区切りとして RFC-5 周波数カウンタ基板の「無料配布」を始めました。カウンタ基板の在庫と配布の詳細は10回目の記事をご覧ください。
(以下のリンクは前回の基板の作り方です。)
RFC-5 周波数カウンタ基板の能力
この基板は、おじさん工房さんが設計された高性能な「RFC-5 周波数カウンタ」を、小さな部品を半田付けする能力に乏しい素人の私が、安定して性能を発揮できるように基板化したものです。
本来の RFC-5 は、しっかりと製作すると 200 MHz を超える周波数も余裕で計測できる高性能らしいのですが、この基板の能力はそれを再現できているのか、心配になって確認してみました。
信号源の確認
自宅の作業部屋には、オシロスコープ(新品!)以外に、ジャンクなデジタルマルチメータと周波数カウンタ程度の計測器しかありません。
本来ならば出力が分かっている RF の信号源と、出力を測る RF パワーメータが欲しいところですが、どちらも自作の器材なので正確ではありません。
RF パワーメータ
あ、忘れていました。
いつも利用している AliExpress で購入して、今までほとんど出番のなかったパワーメータがありました。
(写真は販売元から引用)
型番は不明ですが「RF-8000」などの番号で販売していることが多いようです。
色々と探しましたが、回路図や使用している部品の詳細は分かりませんでした。
販売元が公開している性能は、
・測定周波数範囲: 1 MHz – 8 GHz
・測定電力範囲: -45 〜 -5 dBm
・測定解像度(最小目盛):0.1 dBm
・測定誤差:± 1 dBm 以下
・電源: 5 VDC、50 mA 以下
実際に使用された方の感想を見てみると「誤差が大きいので使えない。」ということですが、他に比較のための器材を持っていないので数値の目安として使ってみます。
このパワーメータは、上下をアクリル板で挟んだだけの外観です。
このままでは横から色々な物が入って来そうで不安なので、簡単にケースに入れて使います。
このパワーメータのちょっと癖のある使い方やケースの作り方は、時間があればその内に別の記事にします。
ケースは簡単に出来上がるように百均の容器を使い、フタ部分を 3D プリンタで製作したものです。
本体は基板が2階建てになっていた物を分離しました。これは、RF コネクタを延長すると誤差が増えるので、 SMA コネクタ部分がそのままケースから出せるような配置にしています。
本来の電源は USB から給電しますが、リチウムイオン充電池を使ってケーブルレスにしました。
内部の構成はこんな感じです。
信号源
高周波の信号源には、FRMS と GigaSt Ver.4 を使いました。
FRMS は信号拡張の FREX を使って最大 200 MHz です。
GigaSt は簡易スペアナですが、これの信号発生機能を使います。最大で 4 GHz 程度まで出力できます。
簡易的な測定になりますが、RF-8000 パワーメータを使って RFC-5 周波数カウンタで計測出来そうな範囲の周波数の出力を測ってみます。(全て 50Ωで終端されていると仮定しています。校正もしていない器材なのである程度の誤差があると思いますが動作の目安とします。また、RF-8000 パワーメータの最大入力は -5 dBm なのでアッテネータを入れて計測しています。)
FRMS + FREX
周波数(MHz) | dBm | mVP-P |
10 | 0.6 | 677 |
50 | -0.2 | 618 |
100 | -0.1 | 625 |
150 | -1.2 | 550 |
190 | -1.5 | 532 |
GigaSt
周波数(MHz) | dBm | mVP-P |
10 | -16.7 | 92 |
50 | -14.5 | 119 |
100 | -13.3 | 137 |
150 | -12.9 | 143 |
200 | -12.6 | 148 |
250 | -12.9 | 143 |
300 | -13.0 | 141 |
350 | -13.7 | 130 |
RFC-5 アンプの確認
各信号源の信号の大きさ(誤差込みですが・・・)が分かったので、再度、RFC-5 周波数カウンタ基板のアンプ部分の性能を確認してみます。
5倍アンプ
オリジナルの RFC-5 には高周波用 FET 1段のアンプが使われています。
この FET のドレインにつながっている抵抗で増幅率を調整しています。
オリジナルでは 150 Ωですが、今回は 180 Ωにして増幅率を上げています。
この状態のアンプで FRMS の信号(-1.5 dBm 程度)が 170 MHz まで計測出来ました。
GigaSt の信号(-13 dBm 程度)は計測不能です。
20 dB アンプ
おじさん工房さんが設計した高性能なアンプを使います。
その性能は、-3dB 帯域(17 dB 増幅)で約 500MHz という高性能です。
楽しみですね。
これだけ高性能なアンプなので、単独で MCU の入力につないでみます。
あれ?
最大で 90 MHz で止まってしまいました。
100 MHz は測定できません。
おかしいなぁ。
5倍アンプ + 20 dB アンプ
20 dB アンプ単体では 90 MHz までしか計測出来なかったので、RFC-5 基板の回路を一部変更して5倍アンプの前段に 20 dB アンプを接続して増幅率を稼ぎます。
えっ?
この状態でも最大は 90 MHz までですね。
高性能な 20 dB アンプには非常に期待していたのですが、私の基板設計能力が低いために高周波での利得が下がっている(ハイパスフィルタ的な性能?)ようです。
おじさん工房さんの掲示板で質問したところ、「やどさん」が色々と検証して下さり、オリジナルの 20 dB アンプの部品を交換しても NanoVNA で計測した結果では 190 MHz 以上では使い物にならないという結果でした。
このため、この基板で 20 dB アンプ部分の回路を実装するのは、試験目的以外では止めた方が良さそうです。
オリジナルの5倍アンプだけの方が倍近く成績が良かったです。
5倍アンプ改
5倍アンプの抵抗を 180 Ωから 200 Ωに交換します。
FRMA + FREX が出せる最大周波数 190 MHz までは安定して計測出来ました。
つまり、入力は -1.5 dBm あれば計測するという事ですね。
(GigaSt の -13 dBm では無理でした。)
とりまとめです。
アンプの種類 | 上限周波数(MHz) | 入力値(dBm) |
5倍アンプ(180Ω) | 170 | -1.3 |
20dB アンプ | 90 | -0.1 |
5倍アンプ + 20dB アンプ | 90 | -0.1 |
5倍アンプ(200Ω) | 190 | -1.5 |
アンプの変更
製作した周波数カウンタ基板に組み込めそうなサイズで、安価に入手できる高周波アンプを探してみました。
AliExpress では何種類かの完成品で安価な RF アンプを扱っています。
その中で、電源電圧が 5 V の物を見てみます。
最終的に選んだのは、パッケージに「5-6000MHz」と書かれた RF アンプです。(購入時は1個317円!)
それでは分解してみましょう。
このアンプのシールド部は四隅に出っ張りなどはなく、半田で2か所を軽く止めているだけだったので、簡単に除去できました。
内部は、RF アンプ IC とデータシート記載の回路図どおりの最低限の外付け部品が見えました。(部品の数値は確認していません。)
また、SMA コネクタも「外してくれ」と言わんばかりに、表側に薄めに半田が付いているだけだったので、ワット数の大き目な半田こてで温めると簡単に外れました。
このアンプの販売元 HP では「SPF5189Z」という IC を使っていると書いてあります。
その IC のデータシートを見てみると、対応周波数は 50MHz to 4000MHz だと書かれているので、パッケージの「5-6000MHz」とは異なります。
利得は 1 GHz 以下では 20 dBm 程度はあるようです。
電源電圧は最大で 5.5 V、消費電流は最大で 120 mA だそうです。
分解後に IC を電子拡大鏡で見てみました。
表面には刻印がちゃんと見えます。(たまに表面を削って型番を分からなくしている商品があります。)
「SBB5089Z」と読めます。
この IC は「SPF5189Z」と違って対応周波数は 50 MHz – 6000 MHz です。(それでもパッケージ記載の最低周波数 5 MHz ~は無理ですね。)
利得は「Gain=18.7dB at 900MHz」と書かれていました。
電源電圧も最大で 5.5 V、消費電流は最大で 120 mA なので、シールド部分を外さずに消費電流から IC の型番を判断することは出来ません。
販売元の HP をよく見返してみると、「SPF5189Z」を使用したバージョンはシールド部分にしっかりと「SPF5189Z」と書かれており、そちらの周波数表記は「50-4000MHz」となっていました。
(別バージョンの RF アンプの画像は、販売元の HP より引用)
つまり私が購入した方の表面に型番の記載がないバージョンは「SBB5089Z」を使用しているようですね。
とりあえず、販売店にも基板にもアンプの型番が書いていないので、以下では「このアンプ」と呼ぶことにします。
このアンプを5倍アンプ(200 Ωバージョン)の前段につないで測定してみます。
GigaSt + このアンプ
周波数(MHz) | 単体(dBm) | 追加時(dBm) | 増加(dBm) | mVP-P |
10 | -16.7 | × | – | – |
50 | -14.5 | +1.4 | +15.9 | 743 |
100 | -13.3 | +2.4 | +15.7 | 833 |
150 | -12.9 | +3.1 | +16.0 | 903 |
200 | -12.6 | +3.0 | +15.6 | 893 |
250 | -12.9 | +3.0 | +15.9 | 893 |
300 | -13.0 | +2.8 | +15.8 | 873 |
350 | -13.7 | +2.7 | +16.4 | 863 |
このアンプの増幅分は、(誤差込みで)+16 dBm 程度はあるようです。
信号源の GigaSt の出力にアンプをつなぎ、RFC-5(5倍アンプ(200 Ωバージョン))に入力して計測してみます。
おぉ!すごいです。
370 MHz まで安定して計測出来ました。
(写真は、試作品の 3D プリンタで作ったケースに入れています。また、LCD はファームを変更して小型の I2C タイプを使用しました。)
手のひらサイズの小型周波数カウンタが、プリスケーラもなしで 300 MHz 以上を計測できるなんて夢のようです!
このアンプを直付け
「このアンプ」が本当に正規の IC(SBB5089Z)を使っているか心配ですが、試験用に組み立てた RFC-5 基板の5倍アンプ側の空き地に、このアンプを直付けしてみます。(20 dB アンプの電源配線は取り除きました。)
今回は簡易試験なので、高周波を扱いますが単線でつないでみました。
さっそく、GigaSt の出力を入れてみます。その出力は -13 dBm 程度のサイン波が出力されているはずなので、アンプで増幅されて「870 mVP-P」程度の波形が MCU の入力端子に出力されているはずです。
このアンプだけをつないで(5倍アンプは未実装)最高測定周波数を見てみると・・・
画像の周波数が見えるでしょうか?
なんと数百円で購入したアンプだけで 300 MHz まで計測出来ました!
(液晶表示器部分を拡大しました。)
5倍アンプの前段にこのアンプを取り付けた場合の 370 MHz には負けますが、これなら入手が困難な「BF862」や「2SK2394」などの高周波用 FET を購入しなくても、高性能な周波数カウンタが作れそうです。
評価
製作した RFC-5 周波数カウンタ基板の性能を色々と確認してみましたが、まとめるとこんな感じでしょうか。
1 通常の用途(入力が 0 ~ 1 dBm 程度)なら、5倍アンプ(150 MHz 位は楽勝)とプリスケーラ(2 GHz 位まで)で十分な性能がある。
2 5倍アンプの抵抗(R1)の増減で利得が変化し、上限周波数が数十 MHz 程度前後する。
3 今回製作した基板の「20 dB アンプ」部分は何らかの不具合があり、上限周波数が 90 MHz 程度止まりなので、試験用途以外には製作をおススメしない。
4 アナログ系の回路(アンプ部)を実装しなくても、安価で手に入るアンプ直付けで 300 MHz 程度まで計測できる。(消費電流は 60 mA 程度増加する。)
今回製作した RFC-5 基板の最終的な評価としては、5倍アンプ部のみを実装して 20dB アンプ部の代わりに市販品のアンプ基板を内蔵して電源を切替式にすると、小信号用と標準的な信号(0 dBm 程度)の両方で 200 MHz 程度までは測定できそうです。
次回の予定
次回は、今回やるはずだった RFC-5 用に製作したプリスケーラ基板2種類を組み立てます。
プリスケーラ基板は、RFC-5 の BNC 部分に合体出来るように設計しました。
小さいほうのプリスケーラ「uPB1507」などの部品は、秋月電子で購入できます。
大きいほうのプリスケーラ基板に使用する「MB506」は、現在では入手が難しいかもしれません。
動作確認のために組み立てたプリスケーラ基板は両方ともに動作はしていますが、最低と最高の測定周波数を確認できていないので、その辺の確認も行います。
また、現在は試作段階の周波数カウンタ用のケースも、完成させたいです。
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