オシロスコープ 「スペアナ」機能-FFT(高速フーリエ変換)

先日導入した、デジタル・オシロスコープ SDS804X HD はすごく良い感じです。
オシロスコープとしての基本的な操作方法はだいぶ分かってきたので、今回は、販売店の HP にも記載されていて気になっていた、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)機能を使ってみます。

なお、入手できる色々なオシロスコープから、悩みながら Siglent SDS804X HD を選んだ細かな過程は下の記事をご覧ください。

FFT 機能とは

FFT 機能について色々とネットで調べてみたのですが、「簡単な解説」を見てみても、私には理解が難しい方程式がずらっと並んでいて、その原理や中身について詳しくは分かりませんでした。

それでも色々調べてみると、あの大天才 ドイツ人のガウス(Johann Carl Friedrich Gauß)が1800年頃に小惑星を見つけるために作り出したのがフーリエ変換だと分かりました。
しかし、当時の(彼のような天才ではない)普通の人間では(さらに当時の技術では)使い方が分からずに忘れ去られていたようです。

その後、冷戦下の1965年にソビエト連邦による違法な核実験を検出するために、アメリカの有名な DARPA による「Project Vela」の地中核実験検出プログラム:Vela Uniform で、地震波と核実験による波形を識別するために、コンピュータを使った高速フーリエ変換としてよみがえりました。
(陰謀論の元となった組織 DARPA については、以下の記事をご覧ください。)

超簡単に言うと、重ねあって複雑な波形の時間軸を計算によって周波数軸にして分かりやすくする技術です。(多分)
当時は IBM の大型コンピュータで行っていた計算が、今では改良されて1つの CPU チップ上でリアルタイムに計算・表示できるようになりました。

Siglent 社の日本法人の HP を見てみると、SDS800X シリーズには「FFT機能は優れたスペクトル分解能を備え、スペクトラムアナライザのように信号の周波数成分とエネルギー分布をより正確に解析できます。」と記載されていました。

マニュアルを確認すると、本当にスペクトラム・アナライザのように横軸を周波数、縦軸を電圧(dBm)で表示されています。
どうやら、色々と調べてみると Siglent 社はこの FFT 機能に力を入れているようで、発売当初の機種から搭載されている FFT 機能の評判は良かったようで、最新式の SDS800 シリーズはさらに進化しているそうです。(ネット情報)

オシロスコープを買ったはずなのに、スペアナとしても使えるなら、とってもうれしいですね。

FFT の操作方法

SDS800 シリーズのデジタル・オシロスコープには高度な FFT 機能が搭載されていますが、その機能は「Math(計算)」の中の1つの機能として記載されています。

早速、使ってみましょう。

入力波形の表示

入力に使用したのは、自作の ADF4351 を使用した広帯域の信号発生器です。
この信号発生器の製作記事は、以下のリンクをご覧ください。

使用した時は未完成な上に、どの程度の波形が出ているかの確認もしていませんでしたが、多分、使用している評価ボードと途中の配線・コネクタなどで数 dBm 程度の減衰や波形の歪みなどが発生している事と思います。

使用している広帯域シンセサイザ IC の ADF4351 は、35 MHz~4,400 MHz までの信号を低ノイズ・低ジッタで出力できます。
この信号発生器が出せる最低周波数は 35 MHz ですが、オシロスコープの帯域幅上限(70 MHz)の少し下の 60 MHz を出力してみます。

この出力波形を、オシロスコープのチャンネル1に BNC ケーブルで接続します。
このオシロスコープ(SDS804X)は安価な割に非常に高性能なのですが、さすがに全ての能力が高級品と同じわけではなく、残念ながら 50Ωへの入力切替機能は省略されています。
そこで、別記事で紹介予定の「フィードスルー・ターミネータ」で、入力インピーダンスをケーブルと同じ 50Ωに変換しています。

そして、正面パネルの「Auto Setup」を押して、波形を良い感じに表示しておきます。

設定

正面パネルの縦軸ノブの下にある「Math」スイッチを押します。

このスイッチを押すと、画面表示は上下2つに分かれて、下側にピンクの線が追加表示されます。
通常は、ピンク色の波形のラインは2チャンネル目にプローブを接続したときに使いますが、「Math」機能を使うときには、その処理された波形がピンク色で表示されます。

画面右に表示される「Math」の中「関数」の「C1 + C1」部分を押すと、左にウインドが開くので「FFT」を選びます。

波形の調整

「Auto Setup」で良い感じに表示されていた波形を FFT 表示した最初の波形がこんな感じです。

あれ?
こんなもんなのかなぁ。
確かに下には横軸が周波数に変換された波形が表示されていますが、スペアナと言うには無理があるというか、ただの直線です。
コーヒーでも飲みながら、少し考えますか。

下軸の波形の下に表示されている数字を見て分かりました。
表示されている周波数のセンターは 60 MHz で入力波形と同じですが、最小と最大の周波数を見てみると 20 MHz もの間隔がありました。

これは、もっと間隔を縮めないといけないですね。
時間軸のノブを調整します。

こんな感じになりました。
そうか、FFT を紹介する画面写真で、上側の波形が太い線状になっていたのは、こうゆうことだったのですね。(納得)

良い感じですね。
先ほどはタイムベースが「10 nS/Div」でしたが、「2 uS/Div」位にするとスペアナ的な波形が表示できました。

出力レベルは、信号発生器の設定で -4 dBm で出しましたが、見た感じでは 0 dBm より少し低い位は出ているようです。
自作の信号発生器の周波数波形を初めて見ましたが、左右には変な出っ張りがなくて思ったよりもきれいな波形でした。

ちょっと脱線

これで、気になっていた FFT 機能を使うと「スペアナ」的な計測が出来ることが確認できました。
計測器としてのスペクトラム・アナライザは持っていないので、「スペアナ」的な波形が見られるだけでも有ると無いとでは大違いです。

しかし、70 MHz ではなくて、もう少し上の周波数まで見られないのかが気になります。
この SDS804X HD の帯域幅は最大で 70 MHz ですが、オシロスコープの周波数帯域とは、入力された正弦波信号が振幅の70.7%(-3dBポイント)まで減衰した周波数を示しています。
つまり、振幅の減衰がある事を事前に知っておけば、最高周波数帯域以上の周波数でも「故障して波形が出ていないのか」の判断には使えるという事です。

この項目は、このオシロスコープのサンプルレートが最高 2 GSa/s なので、計算上 FFT には数百 MHz以上の成分も算出されるであろうと考えて、表示される信号が量子化誤差を含むノイズフロアの成分である事を理解した上でアマチュア的な好奇心から帯域幅以上の周波数も見てみます。

注意:以下の最高周波数の値は、私の使用した器材での組み合わせで見られたものです。
実際に同じオシロスコープで、同様の計測が出来ることを保障するものではありません。

ちなみに、今のところ周波数に追随して FFT の波形が中央にとどまる、ピークホールド的な設定方法が分かっていません。(そのような機能があるのかも分かりません。)
そのため、センター周波数を動かすたびにオシロスコープの設定を変更しています。

センター周波数の変更は、最下段の「Math」チャンネル用の部分を押して、表示されるメニューの「Horizontal」を押します。
表示されるメニューの数字部分を2度クリックすると、数字入力メニューが開くので、必要な数字を入力します。

周波数を上げていきます。
最高帯域幅以上の 100 MHz です。
先ほどの 60 MHz での出力レベル(0 dBm)と同じ程度です。

少しずつ周波数を上げて、レベルが下がるところまで見ていきます。
200 MHz を超えて 300 MHz でも、ほぼ同じレベルを維持していました。

さすがに 400 MHz では減衰していましたが、すごいです!

周波数の表示

このオシロスコープには、以前、2種類の周波数計測機能があると書きましたが、今回確認したところ第3の周波数計測機能がありました。

画面上の「Analysis」を押して「Counter」を選びます。

通常は画面の右上に周波数が表示されていますが、画面左にも入力周波数の詳細が表示されます。(表示方法が違うだけで、表示される値を見ると内部機能は同じかな?)
ちなみに、周波数を測定するだけなら、500 MHz を超えても余裕で計測していました。

統計機能

今までで紹介した FFT の画面表示は、標準設定の上下2画面でしたが、最近の CPU の性能アップによって現在のデジタル・オシロスコープは、色々な計測結果を1つの画面に表示して比較できるようになっています。
この機能を「統計機能」と言うようです。

今回の波形には、ルビジウム標準信号発生器の 10 MHz で検証してみました。

画面上の「Measure」を押して表示されるメニューで「Statics」を ON にします。
必要に応じて、その下の「Statics Setting」でヒストグラムを ON にしておくと、それぞれの小さな画面の下に簡易波形が表示されるのでお勧めです。

次に、表示される薄い「+」部分を押します。

色々なオプションが選べるので、今回は「Pk-Pk」と「Freq」を選んでみました。
それぞれの小画面は、リアルタイムで更新されます。

また、このオシロは画面タッチとマウスで操作が出来るのですが、ここに表示したウインドのサイズなどを好きな位置・大きさにして便利に使えます。
(すでに今までの私の持っているオシロのイメージを、かるーく超えてますね。)

まだ、他にも色々な方法の波形表示が出来るようですが、私の能力では使いこなすところまでは遠そうです。(頑張ろう!)

次回の予定

SDS804X HD デジタル・オシロスコープの FFT 機能は、宣伝どおりにスペアナ的な機能がありました。
そして、その上限周波数は帯域幅の上限、 70 MHz 以上でも計測可能でした。

そうなると、気になるのは付属するプローブの能力です。
今回、信号発生器との接続に使用したのは HP 純正の BNC ケーブルでしたが、このオシロスコープに付属して来たプローブは 70 MHz が上限の物です。

そこで、信号発生器の周波数を何らかの方法でスイープさせて、付属のプローブをつなぎ FFT 機能で周波数を見てみればプローブの周波数特性が分かるのではないかと考えました。(簡易スペアナとトラッキング・ジェネレータ的な)
本来ならばこの機能は、別売の純正信号発生器(SAG1021I)を接続すると簡単に実現できるようですが・・・

また、この方法が使えれば、他の部品などの周波数特性も分からないかな?
と考えています。

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