読書「DARPA秘史」を読んで

DARPAという名前をご存知でしょうか?
DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency アメリカ国防高等研究計画局)とは、あなたが聞いたことがある、全ての都市伝説の元となったと言われているアメリカの政府組織です。

DARPA秘史」(出版者 光文社、シャロン・ワインバーガー/著、千葉 敏生/訳)は、「世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇」という副題がついた、DARPAの開設前夜から現在までを担当者に実際に取材して実名で記載された書籍です。

DARPAのマーク

この本の中では、UFOや超能力、カルト的な話題の元になっている、あの、エリア51の真実についても記載されています。(この本を読んで、やっぱり超能力や「地球に飛来した空飛ぶ円盤」などありえないことが分かりました。)

エリア51を管理するアメリカ空軍資材コマンドのマーク

映画「MIB(メン・イン・ブラック)」の秘密組織や「Xファイル」などもDARPAを元にした創作と言われています。
DARPAが開発した主な成果は、

・アポロ計画
・全世界地震観測ネットワーク
・インターネット、マウス(ライトペンなどの入力装置も含む)
・GPS
・ドローン(お掃除ロボット含む)
・Siri(コンピュータによる音声認識・返答)
・車の自動運転などがあります。

使った予算もすさまじい金額で、さらに「そんな簡単な審査で、その予算がおりるの?」と驚きます。

しかし、成功例と同じように失敗した計画も数知れず、ベトナム戦争への介入やビックデータ実験での対応ミスなどで何度も組織の解体危機が訪れますが、なんとか現在まで生き残っています。

この本は、ソビエト連邦(当時)が開発した人工衛星によるスプートニク・ショックにより創設されたDARPAの歴史を、成功も失敗も包み隠さず記録した本です。取材期間は10年間を超え、ページ数は本文のみで520ページにおよぶ大作です。

出だしは、世界大戦の終わりの長崎に原子爆弾が落とされたところから始まります。(「日本語版なので訳者が追加した?」と思ったのですが違ったようです。)
目次の要約は以下のとおりです。

プロローグ 銃とカネ 1961~

パート1 常識破りの兵器開発組織
第1章 知識は力なり 1945~1957
第2章 パニック 1957~1958
第3章 狂気の科学者 1958
第4章 打倒ソ連 1959
第5章 ジャングル戦 1950~1962
第6章 平凡な天才 1961~1963
第7章 非凡な天才 1962~1966
第8章 ベトナム炎上 1961~1965
第9章 巨大実験室 1965―
第10章 占い頼み 1966~1968
第11章 サル知恵 1964~1967
第12章 アジャイル計画の隠蔽 1969~1974
第13章 ウサギと魔女と司令室 1969~1972

パート2 戦争のしもべ
第14章 見えない戦い 1976~1978
第15章 極秘飛行機 1980~1984
第16章 バーチャル戦 1983~2000
第17章 バニラワールド 2001~2003
第18章 空想世界 2004~2008
第19章 ヴォルデモートの復活 2009~2013

エピローグ 輝かしい失敗、冴えない成功 2013~
謝辞 注 訳者あとがき

日本についての記載は、冷戦が終わった後のパート2で「敵」を見失って存在意義を探していたDARPAが、台頭してきた日本を脅威と見て莫大な予算で対策を行うところで登場します。
ハイビジョンテレビや新たな半導体素子の開発なども、敵認識された要因でした。

それまでは戦争が行われている国や隣接国で諜報活動を行ったり戦争のデータ収集・兵器の開発を行っていたDARPAが、東南アジアを超えて極東の国を敵とみなして攻撃を開始しました。

冷戦の際には、色々な手を使ってソビエト連邦を解体に追い込んだ闇の組織(DARPA)が、敵を始末するために使える無制限の予算で、本気で潰しに来たら、東洋の島国など吹き飛んでしまいます。

実際に、半導体や自動車などで世界征服手前まで進み、この世の春を楽しんでいた日本がその後どうなったかは、皆さんのご存知のとおりです。
しかし、この章だけは他と比べて詳細が抜けている気がします。日本に関する部分だけは、DARPAの担当者の名前や使った予算、計画の細部が記載されていません。
他の章では、担当者の細かな感情まで記載されているのに、何か書いてはいないような理由があったのでしょうか?

東芝の半導体やシャープの液晶、日立のマイコン、IOTを先取りした先進OSのTRON(日本全国の学校にも採用予定でした。)、NECのパソコンの凋落、NTTやNHKの技術開発の失敗は、DARPAのそれまでの工作の手口が感じられます。

また、各種エンタメやゲームの開発・販売に加えて、独自の半導体製造を開始するためにハドソン中央研究所を建設して、絶世を誇っていた「ハドソン」が潰れたのは、メインバンクであった北海道拓殖銀行が不良債権により経営破綻したのが原因とされています。
しかし、拓銀以外に日本で破綻した都市銀行はそれ以前もそれ以後も存在しておらず、日本唯一の事例というのが気になります。
なんだかDARPAお得意の工作手順に見えてきます。考えすぎかでしょうか?

ハドソンのマーク

以前、図書館でGPS関係の書籍を探していたときに、「GPS」という単語が検索に引っ掛かりました。
要約を読むと内容が気になったので、予約して取り寄せましたが、届いたときにその厚さ(約4cm)にびっくりしました。

しかし、読み始めるとそれぞれの時代の担当者が個人名で出てきて、その担当者が苦悩した様子が克明に描かれているため引き込まれて一気に読み終わりました。

現在の色々なテクノロジの由来だけではなく、世界大戦後の軍の様子、特に「世界最強」と思われているアメリカ軍の実情(本当は弱っちい?)を知ることが出来て良書です。
時間がある方はぜひ読んでみてください!

コメント