USB PD 3.0 の全電圧に対応したい

前回、作業部屋に沢山ある電源アダプタを整理するために始めた USB PD のお勉強と、そもそも USB って何なの?という疑問はある程度解消されました。

分かったのは、
1 USB は、1976年にNEC(当時は世界的に影響力がありました。)、IBM、インテル、マイクロソフトなどが規格化した。
2 最新の規格の USB4 は、コネクタに USB Type-C のみを採用し、今までの「USB」と数字の間にあった空白は廃止された。(小数点以下のバージョン番号もなくなった)
3 USB PD は、 USB 端子で給電するために2012年に規格化された。
4 USB PD の出力電圧(固定電圧)の規格は 5V, 9V, 12V, 15V, 20V の5種類あるが、電源アダプタ側が対応していない電圧は出力できない。(ダイソーの USB PD 電源アダプタは、5V, 9V, 12V のみ対応)

細かな事は、前回の「USB PDで電源アダプタの整理」のリンクをクリックしてご覧ください。(別窓が開きます。)

今回行うのは、前回の検証で出来なかった 15 V と 20 V の確認と、「USB Type-C オス-オス アダプタ」による電源アダプタへ直結した場合の比較です。

USB PDとは

USB PD (Universal Serial Bus Power Delivery)とは、USB を使って給電するための規格です。
対応した電源アダプタと器材があれば、最大で 100 W(3.1 規格なら 240 W)までの電力を供給できるので、ノートパソコンなどの電源はこれ1個あれば十分ですね。

しくみが難しいので、「USB PD アダプタを買ったのになんで20 V が出力できないの?」などと悩んでいる方も多いと思いますので、簡単な図解をします。

通常の電源アダプタ

今まで使用されていた電源アダプタは、コンセントの AC 100 V に差し込むと、内部の回路で交流から直流に変換して電圧を必要な値まで下げて出力します。
(多機能タイプなら出力電圧が切り替えられますが、電圧切り替えは手動で行います。)

USB PD の電源アダプタ

USB PD の電源アダプタなら、電圧は自動で切り替わります。
接続した器材から「20 V が欲しい」と要求があれば(電源アダプタが対応していれば)自動的に 20 V が出力されます。

具体的には、負荷器材側で USB Type-C の「CC1」「CC2」端子がプルダウンされていれば、電源アダプタ側は相手が USB PD 対応器材だと分かります。(CC:Channel Configuration)
さらに、このラインから送られてきたパケット通信の内容によって、供給される電圧が決まります。

USB Type-C コネクタ

USB Type-C コネクタの CC1 と CC2 の位置は、下図の紫色で示した端子の場所です。
見て分かるとおり、このコネクタは従来の USB コネクタと違って、上下を逆にしても使うことが出来るように良く考えられています。

ちなみに、下図の色分けと実際のケーブルの被覆色は異なります。
(例えば VBAS は赤、GND は黒の 24AWG ケーブルを、TX1+ は黄、TX1- は青、 RX1+ は橙、RX1- は紫の 32AWG ケーブルを使用)

(上図は、MICROCHIP社の資料 「Introduction to USB Type-C」(AN1953)より引用)

USB PD の各規格

USB PD にも色々と規格があるので、表にまとめてみます。
(表にするために細かな数字は省略して、代表値を記載しています。)

規格PD 1.0PD 2.0PD 2.0
Ver1.2
PD 3.0PD 3.1
規格年2012201420162016
対応コネクタType A,BType A,B,
Type-C
Type-CType-CType-C
出力電圧5V 2A
12V 5A
20V 5A
5V 2A
12V 5A
20V 5A
5V 3A
9V 3A
12V 3A
15V 3A
20V 5A
5V 3A
9V 3A
12V 3A
15V 3A
20V 5A
5V 3A
9V 3A
12V 3A
15V 3A
20V 2.25A
20V 5A
最大電力100W100W100W100W240W
可変電圧3.3V-21V3.3-21V
15-48V
備考電流は最大値電流は最大値電流は最大値電流と可変電圧は最大値電流と可変電圧は最大値

(Universal Serial Bus Power Delivery Specification Revision:3.2, 2023-10)

USB PDの電源

USB PDの電源アダプタ

前回検証した USB PD の電源アダプタは、ダイソーやセリアでも税抜き700円で販売しているものと同等の電源アダプタを使用しました。

これは、市内のパソコンショップで購入した USB PD の電源アダプタで、出力電圧は5 Vで3A、9 Vで2A、12 Vで1.5Aが取れるものです。
しかし残念ながら 20 V の出力が出来ないので、USB PD 3.0 どころか 2.0 の規定電圧の全てに対応していないタイプです。

トリガ・ボード

前回、電源アダプタの検証のために入手した、電圧を設定して出力させる「トリガ・ボード」は、5 V、9 V、12 V、15 V と20 V の出力が可能な USB PD 3.0 対応なのですが、電源アダプタ側の制限で 15 V 以上の電圧は出力できませんでした。
(スイッチ切替式の「トリガ・ボード」)

今回は、白い電源アダプタを購入したパソコンショップで、20 V まで出力できるタイプの電源アダプタを安価に入手できたので、USB PD 3.0 の(可変電圧を除く)全ての電圧について確認してみます。

なお、前回は「トリガ・ボード」の端子がメス端子のものを購入したので、電源アダプタと「トリガ・ボード」をつなぐケーブルも検証しなければなりませんでしたが、直付けできるアダプタを入手したので違いについても検証します。

USB PD 電源アダプタの機能確認

まず最初に、今回購入した電源アダプタの機能を確認します。
電源アダプタの表面の記載を確認します。(箱は購入してすぐに捨ててしまいました。)

出力電圧には、5.0 V 3.0 A、 9.0 V 3.0 A、 15.0 V 3.0 A、 20.0 V 3.25 A の4種類と記載されています。
「あれ?よく見たら 12 V がない!」
これは確認が必要ですね。

本体に記載された型番には、「E065-1C200325FU」と記載されています。
販売会社は「菱洋エレクトロ株式会社」と読めます。

型番で検索してみました。
「菱洋エレクトロ株式会社」は、「三菱電機の半導体販売商社として誕生」した会社のようです。
この電源アダプタの商品名は見当たりませんが、こちらの商品ですね。
(パッケージの画像は販売元のHPより引用)

直結アダプタの入手

前回の確認では、購入したトリガ・ボードをそのままで、接続には実験用に使っているワニ口式のコードを使用しましたが、トリガ・ボードにはDC ジャックを取り付けてしまったので、機能確認用に DC ソケットとマルチメータをつなぐアダプタを作ります。

そして、久々の秋葉原ツアーで見つけた「USB Type-C オス-オス アダプタ」の出番です。
このアダプタは、ネットでは「こんな商品何に使うの?」などと酷評されていましたが、私は長らく探してやっと見つけて感激しました。
この形のアダプタを、ネットの数々の部品屋さん、AliExpress、eBay、その他の星の数ほど(大げさ)の店舗を探しても見つからなかったのですが、秋葉原に買い出しに行った時に千石電子さんで見つけました。
「さすが秋葉原、世界中で探しても見つからなかったものが、普通に棚に並んでいる!」
(秋葉原の旅行記は以下のリンクをご覧ください。電子部品屋さんについて色々書いています。)

商品番号は「UC10-MM」で、製造会社は「comon(カモン)」です。
「カモンさん、作ってくれてありがとう!」

商品一覧を確認したら、上位互換の「UC40-MM」もありました。
「USB PD 対応で最大出力 5 A」と書かれています。
そちらを買えばよかったかな。

袋の中身はこんな感じです。
USB PD の電源アダプタの出力端子が「USB Type-C メス」で、トリガ・ボードの入力端子も「USB Type-C メス」なので、このアダプタがあれば直結できます。

電源アダプタに刺してみました。
良いですね。
すでに前回の実験で、電源アダプタからトリガ・ボード間の長さが短いほど電圧降下が少ない事が分かっているので、これ以上の短縮は無理な直結アダプタです。

トリガ・ボードの機能確認

このアダプタに「DC 12 V」のトリガ・ボードをつなぎます。
このトリガ・ボードにはアルミ製のケースが付いてきますが、固定する部分などないタダの筒です。
仕方がないので、簡易的に絶縁用のゴムでケースと基板を固定しています。
(表面の表示は汚い手書きです。日常的に使うまでにはラベルを作ります。)

もちろん、前回も確認しているので、この接続なら出力は 12 V になります。
(写真を撮ってから、マルチメータの表面が汚い事に気づきましたが後の祭りです。)

新しい電源アダプタの機能確認

12 V は出力できるか?

「12 V トリガ・ボード」を新しい電源アダプタに接続します。
こちらの電源アダプタは、出力端子が「USB Type-C オス」なのでそのまま刺さります。

この電源アダプタは、本体の記載によれば 12 V は未対応でしたね。
出力電圧を見てみます。
少し暗くて見づらいですが、9 V になりました。
対応していない電圧は「0 V」になると思ったのですが、1つ下の設定電圧が出るようです。

しかし、この電圧は製造メーカが保証した状態ではないので使うべきではないでしょう。
この電源アダプタは、本体の記載どおりに 5.0 V, 9.0 V, 15.0 V, 20.0 V の4種類の電圧が出力できると考えるべきですね。

その他の電圧

電圧をスイッチで切り替えられるタイプのトリガ・ボードに差し替えて、新しい電源アダプタの出力電圧を確認します。
5 V です。
正常に出力されます。

9 V です。
問題ありません。

未対応の 12 V です。
写真では LED が消灯しているように見えますが、未対応の電圧に設定すると LED が点滅します。
出力電圧は、12 V 固定電圧のトリガ・ボードと同じく 9 V になりました。

次に対応している 15 V です。
未対応の電圧から対応している電圧へ切り替えると、瞬時に正しい電圧が出力されました。

最後に 20 V です。
新しい電源アダプタが対応している電圧は、正常に出力されることが確認できました。

入力端子がオスのトリガ・ボード

USB PD の電源アダプタには、出力端子がメスの物がたくさんあります。
電圧を指定するトリガ・ボードの入力端子も見た限りではメスの物が多いようです。

これでは、トリガ・ボードの接続のために別途 Type-C のUSB ケーブルを準備しなければならず、それも前回の検証結果から短くて「高級な」ケーブルでないと、この部分で電圧降下が発生してしまいます。

それを防ぐために、色々と探して入力端子がオスのトリガ・ボードを見つけて入手してみました。
このタイプのトリガ・ボードと「オス オス」アダプタを使った場合を前回のケーブルで接続したデータと比較してみます。

今回入手した入力端子がオスのトリガ・ボードです。
設定電圧は固定式で、9 V と 12 V の物です。
前回購入した固定電圧式のトリガ・ボードのアルミ製のケースとは違って、今回のケースはプラ製なので絶縁は気にしなくても良さそうです。

電源アダプタが沢山余っていたので、オシロスコープで確認して出力にリップルが多いものは処分しました。
その際に電源アダプタから回収しておいた電源ケーブルを再利用します。

このケーブルを端子に半田付けします。
トリガ・ボードの型番は「DY038-2」のようです。
購入元の AliExpress の店の HP では、この小ささで出力電流は 5 A との事です。

「G」側にグランド線を「V」側にプラス配線をつないで、ケースを閉めましたが、「ぱちっ」と固定されるような作りではありません。
とりあえずテープで固定しておきます。

ちなみに、IC とコネクタの間にある抵抗を交換すると設定電圧を変更できるようです。
(5 V:0Ω, 9 V:6 kΩ, 12 V:10 kΩ, 15 V:15 kΩ, 20 V:なし)私は試していないので詳細は不明です。

負荷試験

今回も自作の負荷試験装置で電源アダプタとトリガボードに負荷を掛けて、電圧降下を確認します。
この負荷試験装置は、CQ出版社の「作りながら学ぶ エレクトロニクス測定器」の第3章「直流電子負荷の設計と製作」を少し変更してジャンクの電源装置のケースを加工して組み込んだものです。

しかし、この負荷試験装置の最大負荷電流は 2 A で、強制空冷でも消費できる電力は 60 W 程度なので、新しい電源アダプタの全てを検証することは出来ません。(全ての電圧で最大出力電流が 3 A を超えています。)
可能な範囲でガンバってみます。

自作の負荷試験装置

前回の確認結果

前回の確認結果はこちらです。
スイッチ切替式のトリガ・ボードを使い、中継用に使った USB ケーブルで違いがあるかを見てみました。

設定電圧は 12 V で、ケーブルの違いによる電圧降下です。
縦軸が電圧、横軸が電子負荷装置に表示された電流です。

青色:ケーブル長 25 cm
オレンジと灰色:ケーブル長 100 cm

こちらも設定電圧は 12 V ですが、トリガ・ボードによる違いを比較しました。
ケーブルは同じ物(100 cm)を使いました。
青色:切替式トリガ・ボード
オレンジ:電圧固定式のトリガ・ボード

切替式のトリガ・ボードでは、どのケーブルでも規定電圧の 12 V を切ることは無かったのですが、固定電圧のトリガ・ボードでは製品仕様の最大電流である 1.5 A より手前の 1.0 A で 12 V を下回ってしまいました。

白い電源で検証

最初に、前回検証した白い電源アダプタで確認をします。
まずは、「直結アダプタ」での違いを見てみます。

直結アダプタ

白い電源に「直結アダプタ」を使ってスイッチ式と固定電圧のトリガ・ボードで違いを見ます。
条件を揃えるために設定電圧は 12 V です。

縦軸が電圧、横軸が負荷電流です。
青がスイッチ切替式、オレンジが固定電圧のトリガ・ボードです。

直結アダプタの効果は抜群です。
固定電圧式は負荷電流 1 A で 12 V を下回っていましたが、最大負荷を掛けても 12.15 V を維持していました。
しかし、スイッチ切替式のトリガ・ボードの電圧が下がっています。取り付けた配線が細かったかな?

入力端子がオスのトリガ・ボード

非常に小型で入力端子がオスのトリガ・ボードで検証します。
こちらも条件を揃えるために 12 V 固定式のトリガ・ボードを使います。

こちらも破棄した DC 電源アダプタから回収した配線を使ったのですが、負荷を掛けたとたんに 12 V を下回ってしまいました。
解体した電源アダプタには 2 A と書いてあったのに、配線が細かったのかな?

新しい電源で検証

新しい電源アダプタは、全ての電圧設定で 3 A 以上の電流が取り出せます。
特に 20 V はノートパソコンの電源用に 3.25 A もの出力電流が流せますが、負荷装置の最大負荷電流が 2 A という制限から、そこまでの検証になります。
なお、検証にはスイッチ切り替え式で入力端子がメスのトリガ・ボードを使いました。

5 V

スイッチ切替式のトリガ・ボードで設定電圧を 5 V にして負荷試験を行います。
最大負荷は装置の制限で 2 A までです。

測定を開始した値を二度見しました。無負荷でも 5 V を下回っています。
新しい電源アダプタのコード長が 1.8 m あるので、その分の電圧降下でしょうか?

9 V

9 V は無負荷なら 9.01 V でしたが、少しでも負荷を掛けると 9 V を下回りました。

15 V

この電源アダプタは 12 V が出力できないので、次は 15 V です。
傾向は 9 V と同じでした。

20 V

20 V です。9 V、15 V と同じ感じの電圧降下となりました。

評価

今回、色々と試してみて USB PD の電源の傾向が分かりました。

1 電源アダプタで設定のない電圧は出力できない。
2 設定のない電圧を取り出そうとすると、その下の電圧が出力される。
3 負荷がかかると電圧が規定値より下がるので、入力電圧に依存する回路の電源に使用するには工夫が必要(高い電圧で入力して自前で降圧回路を持つ等)
4 トリガ・ボードは降圧レギュレータのように、下げた電圧を熱に変換したりしない「電圧設定回路」なので、この部分で熱を持つことはない。
5 電源アダプタとトリガ・ボード、その先の配線の太さと短さが電圧降下に影響する。

素人によるいい加減な「検証」なので間違っていることも多いと思いますが、大筋では外れていないでしょう。

本当は、各電圧と負荷でノイズなどをオシロスコープで見てみたかったのですが、手元に残していた LCD 画面のジャンクなオシロスコープの電源が入らなくなってしまいました。(悲しい。)
(大きくて重たいので処分した、テクトロなどの CRT 式オシロが今となっては・・・)

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