水晶で出来た振動子は、時計の信号の元となっているので、その周波数はすごく安定しているものだと思っていました。
しかし、電源電圧、周囲の温度や重力などで発信周波数が大きく変化することを知りました。
(オシレータと重力の関係は、下のリンクをご覧ください。)
そこで、水晶振動子の周波数を安定させるために、
・(ある程度の)安定した電源電圧は、簡単に製作出来ます。
・安定した重力制御装置は、現在の技術ではムリですね。
・安定した温度の管理はどうだろう?
今回は、3つ目の温度管理の方法が気になったので、色々調べてみました。
簡単な温度制御
温度制御と聞いて一番最初に思い付くのは、ヒーターで温める方法です。
「自宅リフロー」の記事でも解説しましたが、温度センサで温度を検出して指定温度までヒーターに通電すると簡単に温度制御が出来ます。
AliExpress で購入した PTC ヒーターが使われた「ヒートプレート」なら、240 ℃ 位まで自由に加熱できそうです。

しかし、考えると分かりますが、この方法だと室温以下にはなりません。
色々な部品の特性を調べるなら、出来れば 0 ℃ ~ 80 ℃ ぐらいまで自由に温度を変えたいところです。
温度を下げる方法
温度を下げるには、
・風を当てる。
・氷で冷やす。
・冷蔵庫に入れる。
などを思いつきましたが、風を当てただけでは、室温の数℃程度しか下がらなそうです。
氷で冷やすと溶けた水がポタポタと流れてきますね。
冷蔵庫に入れると 4 ℃位まで冷えますが、8本足の黒い虫サイズの本体などを冷蔵庫に入れたら家族から苦情が来そうです。
色々とネットで調べたら、電気を流すと自由に温度が制御できる魔法のような「ペルチェ」というものがあるようです。
ペルチェとは
ペルチェ素子(ペルティエ素子:Peltier device)とは、フランスの物理学者 ジャン=シャルル・ペルティエ が1834年に発見した、2つの金属を結合した部分に電流を流すと発熱したり冷却できる熱電効果を使った素子です。(この年は、日本は江戸時代で水野忠邦が老中になりました。)
これは、ドイツの物理学者 トーマス・ゼーベック が1821年に、2つの違った金属を接合して温度差を与えると電流が発生するゼーベック効果の反対の現象でした。
現在、販売されているペルチェ素子(この記事では、ペルティエ素子ではなくペルチェ素子と呼びます。)は、2種類の金属だけではなく2枚の金属板の間にP型とN型の半導体が挟まれたサンドイッチ構造です。
(下の図は、「電子冷熱とは?ペルチェ素子の原理と活用方法の解説」松定プレシジョン株式会社 HP から引用)
この図を見ると、上下の金属板は1枚で出来ているのかと思ったら、細かく区切られているようです。どうりでペルチェ素子の説明書には、衝撃に弱く壊れやすいと書いてあるはずです。

その他にペルチェ素子の特性としては、
・電流の向きを変えるだけで、発熱・冷却の切り替えが出来る。
・触媒を使った冷蔵庫と違い、正確な温度制御が可能
・電流を流すと希望の温度になる魔法の部品ではなく、「熱を反対側へ移動させるデバイス」
・冷却時には反対側が高温になるので、放熱板とファンによる排熱が必須(そのままだと故障する。)
・発熱・冷却するには数 A の大電流が必要(電池だと、すぐに切れる。)
・作り出せる最大の温度差は 70℃程度
・複数枚重ねると発熱・冷却温度が向上する。
・最大印可可能な電圧は 16 V 程度(小型の物は 5 V 以下)だが、電圧を上げると熱効率が悪くなるので最大電圧の 50% 程度が良いらしい。
電子工作好きの味方「秋月電子」などでは、2000円以下でペルチェ素子が販売されています。
(秋月電子 TETC1-12706-T100-SS-TF01-ALO 1750円)

ペルチェ素子を使った商品
雑貨屋ではペルチェ素子を使った、色々な商品が出回っています。
例えば、これからの真夏に便利なハンディファンなどです。
(写真は、Amazon で販売しているペルチェを使った商品を引用、3000円程度)

冷温コースターを入手!
先日、ハードオフでジャンク品を見回っていたところ、こんな物を発見しました。
「冷温コースター」です。
USB で給電して、コップの飲み物の温度を温めたり冷やしたりできる装置です。
ネットで検索したら販売価格は5000円位するようですが、これはジャンク扱いで500円でした。
ジャンク品ですが、箱はキレイだったの動作すると考えて即決で購入しました。

温熱コースターの構造
サイズは、14 cm X 9 cm 高さ 3.5 cm 程度と小型です。(保冷面は 6.5 cm の円形です。)
本体には太めの USB ケーブルが直付けで、ファンと冷温切替スイッチが付いています。
上面が丸い金属プレートになっています。


隙間から見ると、本体内部のほとんどは冷却時にペルチェ素子が出す熱をを排熱するため、アルミ製の放熱器が占めているようです。

動作確認
さっそく通電して、動作確認を行います。
ペルチェ素子の表面温度は、自宅のマルチメータで唯一温度測定機能のある「METEX M-3660D」の熱電対で計測しました。
このマルチメータの温度測定は、-40℃ ~ 1200℃、誤差は 23℃で ± 5℃ 程度のようです。
発熱機能の確認
まずは発熱側に切り替えて実験します。
発熱側では、冷却ファンは動作せず無音です。
数分間放置すると 50℃まで温めることが出来ました。

消費電流です。
USB の簡易測定機なので計測結果は目安程度ですが、5 V で 0.8 A 程度の電流でした。

冷却機能の確認
次に冷却側に切り替えます。
スイッチを切り替えると、放熱器を冷却するファンが回ります。(この場合、常時回転です。)
発熱側と比較して、冷却には長めに時間がかかるようですが、7℃位で停止しました。
ファンのおかげか、本体の底面が厚めの金属板で出来ているためか、結露や水滴・水分の流れはありませんでした。(梅雨のない北海道だから?)

冷却時の消費電流です。5 V で 1.2 A 程度でした。
ファンが回転しているので、当然ながら消費電流は増えています。
(それ以外にも冷却時の方がペルチェ素子は電流を食うのかな?)

内部構造
正常に動作することが確認できたので、分解してみます。
裏板を6本のネジで固定しています。

半田付けの不良
あれ?気になってスイッチ回りの半田付けを確認します。
なんだこれ。
写真じゃ分かりづらいですが、スイッチを組み込んだ後に配線を半田付けしたために、ケースやスイッチが溶けています。
ひどい作り方ですね。品質検査は行われていないのでしょうね。

放熱器
ネジを取り外すと、少し厚めの裏板が外れます。
内部のスペースは、半分以上がペルチェ素子と放熱器で占められています。
(放熱板に付いている白いテープの切れ端みたいな物は何だろう?)

放熱器を取り外して厚みを見てみます。
本体の厚さ 35 mm のほとんどは、この放熱器の厚さですね。
放熱器はケースに収まっているだけで、特にネジなどでは固定されていませんでした。
一番上がコップを受ける金属板で、その下に熱伝導タイプ?の両面テープで固定されたペルチェ素子が入っていると思われます。

保温カバー
発熱・冷却効率を改善するために、ジャンク箱で眠っているクッション材からウレタン素材を回収して保温用のカバーを作ります。
こんな感じで出来上がりました。

ちなみに、この時の室温は25℃程度でした。
保温カバーを付けて、再度、発熱側で温度を確認します。
最高温度(50℃)までの時間が若干短縮されましたが、最高温度に変化はありませんでした。
次に冷却側に切り替えます。
保温カバーをかぶせると、5℃まで温度を下げることが出来ました。

目標
これで、この「温冷コースター」を使うと、USB の 5 V で +5℃ ~ 50℃ までの好きな温度に制御できることが分かりました。
最終的には、この「温冷コースター」を改造して、ラジオペンチさんの「ペルチェ温度コントローラー」(のぱち物)を作りたいです。

ラジオペンチさんの「ペルチェ温度コントローラー」は、手動と自動で細かな温度制御が出来る理想のマシンです。(ラジオペンチさんの「ペルチェ温度コントローラー」の記事は、こちらです。)
これを実現するには、Arduino で温度センサの使い方と PID 制御の方法を勉強しないとダメですね。
とりあえず、部品箱に足りない部品を通販で手配しておきます。
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