ラジオを作る 3

前回は、電池のいらないラジオキットのダイオードを交換してみましたが、AM 放送は受信出来ない状態が続いていました。
今回は、ラジオ実験用の基板を作って試験した結果、屋内での受信に成功しました。
(前回の記事は、以下をご覧ください。)

今回の記事を書くために製作したプリント基板は、PCBWay さんに提供を受けています。よろしければ、下のリンクのクリックにご協力ください。

ゲルマラジオの回路

久々のラジオの製作なので、超簡単な原理を振り返ってみます。(間違っていたらスミマセン)
ラジオの基本構成は、以下の6つからなっています。
・アンテナ部
・同調回路
・検波回路
・増幅回路
・電源回路
・出力回路

この企画で扱う電源のいらない「鉱石ラジオ」は、上の4と5番目の回路がありません。

アンテナ部

アンテナと聞くと、テレビで使う八木アンテナや市販ラジオについているバーアンテナを思い浮かべますが、扱う周波数に合わせた長さの金属なら(効率を考えなければ)板でも棒でも線でも構いません。
イメージ的には、コンデンサと同じです。コンデンサの基本構造は2枚の金属板を平行に離して設置したものですが、これを開けばアンテナになります。

送信アンテナから出た電波は、空中では電界と磁界が90度ズレた状態で波のように進みます。
受信アンテナは、この電波を受け取って電気の流れに変換しますが、送信周波数に応じて適切な長さがあります。
AM 放送なら 530 kHz ~ 1600 kHz 位の周波数なので、波長は約 600 m ~ 188 m です。

アンテナの長さは波長の 1/2 か 1/4 が良く使われるので、150 m か 75 m もの長さになってしまいます。(現実的な長さではないですね。)

同調回路

アンテナ部より出力された高周波から、コイルとコンデンサを使って選局したい周波数を選び出す回路です。
通常はコイルの値を可変するのは大変なので、可変コンデンサで同調を使います。

検波回路

選局するために周波数に同調した波形から、音声信号を取り出すためにダイオードで検波します。
今回は電池を使わずに受信した電波を音声信号にするために、ゲルマニウム・ダイオードを使用します。

なお、検波用のダイオードの手前に充電用のコンデンサとダイオードを追加して、受信した音量を増やす回路を「倍電圧検波回路」と言います。
また、放送局から受信した電波が強すぎる場合には、音声信号が低くなることがあります。対策としては検波後の出力に抵抗を追加します。

出力回路

音声信号を音に戻すためにイヤホンを使います。
ゲルマラジオの出力はとても弱いので、スピーカや通常のイヤホンは使用できません。
昔ながらの「クリスタル・イヤホン」を使います。

このイヤホン、昔は本当に「ロッシェル塩の結晶」を使っていたので「クリスタル」と呼ばれていたのですが、製造の難しさと保管時の湿度の問題から、現在のクリスタル・イヤホンの内部にはブザーなどで使われる圧電素子が入っているので実際には「セラミック・イヤホン」ですね。

コイルの作り方

通常のラジオの作例では、2 ~ 30 m 位の配線で作ったアンテナ部と市販のバーアンテナ又は手巻きのコイルを使った同調回路をよく見かけます。
しかし、世の中には素晴らしい発想を持った方々がいて、手巻きでコイルを作らずに「どのお宅にでも余っている」(個人の感想です。)フラットケーブルや LAN ケーブルを使って同調回路を作ることを思いついた方々がいらっしゃいます。

「ゲルマラジオとピンホールカメラ」というブログで「究極のLANケーブルラジオ」という記事を公開されている方の情報が大変参考になりました。(メールで掲載許可を頂いています。)
細部は以下のリンクをご覧ください。

KiCad で作図

それでは、ゲルマラジオの実験用のプリント基板を作ってみます。
色々な実験に使えるように、
・倍電圧検波回路
・ダイオード差替え用のターミナル
・コイル実験用のフラットケーブル端子と LAN 端子
を備えた基板を目指します。

使用するソフトは、いつもお世話になっている、フリーで使える高機能 CAD の KiCad です。
KiCad は、久々に使おうと思ったら Ver.9.0.6 になってました。
パソコンの OS を WIndows11 にアップデートした後に KiCad を入れていなかったので、初めから最新ソフトを入れなおしました。

そして、ネット上で必要な部品のデータを探してきて、回路図を作りました。
簡単な回路なので作図は、1時間もかからず終了しました。
(受信周波数や使用するコイルで値が変わるので、抵抗とコンデンサの数値は未記入です。)

次に、PCB エディターでプリント基板のデータを作ります。
格安でオーダーできるプリント基板の最大サイズが 100 mm なので、横幅は 100 mm にしました。
高さは適当に 50 mm で作ります。

今回のプリント基板のデータを作る際に困ったのは、ポリバリコンと LAN コネクタのフットプリントです。
結局、合うものが見つからなかったので自作しました。

フラットケーブルで作るコイルは順々に隣とつなぐだけでしたが、LAN ケーブルは 1-2、3-6、4-5、7-8 と一部の結線位置が違っているので配線が入り組んでいます。

PCBWay さんにオーダー

出来上がったデータを PCBWay さんにオーダーします。
まずはホームページでユーザー登録を行った後に「基板試作」を選びます。

続いて、基板サイズを 100 mm X 50 mm 、枚数を最大で10枚以内に設定して「計算する」を選びます。

この設定ならば、プリント基板の製作代はサービス価格の $5 です。
送り方は安価で迅速な「OCS」を選ぶと送料が $7.52 になるので、合計で $14 以下(約2,000円)で実験基板がオーダーできました。(下の図は、後から撮り直したのでカード手数料が含まれていません。)

この後は「カートに追加」を押して、KiCad の Zip 圧縮した製造ファイルをアップロードするだけで手続きは終了です。
通常ならば、アップ後の1時間程度で確認修了のメールが届くので、支払いをしてオーダー完了です。

オーダーから受け取り

いつものようにオーダーして翌日にはプリント基板が出来上がり、次の日には輸送会社に引き渡されていました。
・プリント基板のオーダー
・1日目:基板完成
・2日目:輸送業者へ引き渡し
・3日目:税関での処理
・4日目:航空輸送
・5~6日目:日本国内の輸送

ということで、1週間弱でオーダーしたプリント基板が佐川急便で届きました。

梱包状態

箱にはへこみや汚れもなくて、本当に海外から送られてきたの?と思うほど良好な状態でした。
内部の基板は、しっかりと梱包されています。

内部のプリント基板です。
キレイにパックされて、内部にはシリカゲルが入っていました。

プリント基板

プリント基板の出来上がり状態です。

裏面です。
どちらも問題ないですね。(今まで作った基板と比べて、ベタグランドがないので寂しい感じがします。)

部品を置いてみると、不具合がいくつか見つかりました。

1 ポリバリコンの軸部分の穴が小さい
 ポリバリコンのフットプリントは自分で作ったのですが、回転軸部分の測定ミスで実際は 8 mm 程度の穴をあけるべきところ、ネットで見た図を信じて 6 mm で穴を開けたのできつくて軸が回りません。

2 イヤホン・ジャックの位置
何も考えずにジャックを基板の中央付近に配置したら、LAN ケーブルと干渉することが分かりました。
しかたがないので、ジャックを裏面に取り付けます。

試験基板の組み立て

組み立てと言っても、使う部品は数えるほどなので30分程度で完成します。
・イヤホン端子:AliExpress の PJ-316 です。

・LAN コネクタ 2個:秋月電子の基板取付用LANコネクタ(トランスなし 7810-8P8C)です。

・ポリバリコン:部品箱にあった 10 ~ 150 p 程度の3端子のものを使いました。
・ターミナルブロック 2個
・フラットケーブル 8P 用端子 2個
・1列3P 端子 2個
・1列5P 端子

追加回路の抵抗とコンデンサは変更できるように端子式にして組み立ててみました。
端子はコンデンサが 3P、抵抗が 5P の物を使いました。途中の端子を抜くと、部品がちょうど入るサイズです。
(ポリバリコンの軸の穴を修正する前なので、写真ではバリコンは移動できるように配線式です。)

受信テスト

フラットケーブル用の端子が到着していないので、LAN ケーブルを使って試験をしてみます。
まずは、基板上のダイオード左横の C1 端子をジャンパして LAN ケーブルをつなぎます。
(スイッチングハブでもなく、LAN ケーブルをカチッと差し込むラジオは違和感があります。)
今回の試験では、抵抗やコンデンサは使いません。

LAN ケーブル(AliExpress より引用)

究極の LAN ケーブルラジオ」のページの情報では、3 m 程度の LAN ケーブルを2巻きにすると NHK の AM 放送が受信できるそうです。

「究極の LAN ケーブルラジオ」から引用

下の写真の様な状態で、屋内(鉄筋の集合住宅)で受信が出来るか試してみます。

最初は部屋の中央で試しましたが、小さなノイズしか聞こえません。
「電池式のラジオでも小音量だったし、やっぱりゲルマラジオを北国の屋内で聞くのは無理かなぁ?」
そう思いながら、実験基板と LAN ケーブルを持って窓際に行くと、何かが聞こえてきました!

ポリバリコンをゆっくり回すと・・・
「やった!ラジオ放送が聞こえるぞ‼」
今回の企画で、初めてゲルマラジオで放送が聞けて少し興奮しました。
とりあえず、AM 放送が停波する前に室内で放送を聞く目的が達成できました。

次回の予定

今回製作した実験用基板では、フラットケーブルのコイルも使えるように作りましたが、部品が間に合わなかったので試験していません。
また、受信した音量を増やす「倍電圧検波回路」の部分も定数を確認できていません。
次回は、これらの試験を行う予定です。

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