LCD(PX1602)- I2C アダプタの製作

趣味の電子工作で何か「使える器材」を作る時には、表示装置が必要です。
LED の点灯で済む簡単な回路もありますが、通常は文字(数字)情報を表示させることになります。

今回は、aitendo さんで売っている小型の液晶表示器 PX1602 用の I2C アダプタ(EL ドライバ付き )を作って、おじさん工房さんの周波数カウンタ RFC-7 に組み込みます。

なお、今回の記事を書くために製作した「アダプタ基板」とメタルマスクは、PCBWay さんに提供を受けています。
よろしければ、下のリンクのクリックにご協力ください。

ディスプレイの種類

文字(数字)を表示するには、OLED などのグラフィック・ディスプレイに表示する方法と、液晶のキャラクタ・ディスプレイに表示する方法が考えられます。

左 キャラクタ、 右 グラフィック

簡単な英数字だけの表示なら、キャラクタ式の液晶表示器(LCD)を使うと制御も簡単で、消費電流も少なくて済みます。

LCD のキャラクタ・ディスプレイには、インターフェースの違いで I2C とパラレル式に分かれます。
通常は、I2C の LCD はサイズが小型で、パラレル式は大型の傾向があります。

上 パラレル式、下 I2C

しかし、パラレル式の LCD を小型のケースに組み込みたい場合も出てきます。
私の製作品では、おじさん工房さんの RFC-7 が、その例になります。
この高分解能周波数カウンタは、ji1udd さんが設計した 10 cm X 10 cm のプリント基板で出来ていて、市販のアルミケース(100 mm X 110 mm X 40 mm)にピッタリでした。

ただし、秋月電子などで手に入るパラレル式の LCD(SC1602BSLB)は横幅が 85 mm あるので、 SMA コネクタ2個とスイッチ2個は、どうやっても 100 mm 内に収まりません。

LCD PX1602 について

aitendo で現在も販売している「EL薄型キャラクタLCD(16×2) [PX1602]」はこんな形です。
ケーブルは 1 mm ピッチの 20 ピン FFC(Flexible Flat Cable)です。

組み込む場合に重要な大きさは、通常の LCD(85 mm X 30 mm)より 2 cm ほど小型(66 mm X 32 mm)なので良い感じです。

文字表示も、小型の I2C LCD のように小さすぎて見づらいなんてこともありません。

唯一の欠点(?)は横に出ているケーブルの先にはバックライトが付いていますが、LED ではなく EL(Electroluminescence)なので、EL 用のドライバ IC がないと駆動できません。(トランスで高電圧を作る回路の情報も見つけましたが、大きくなるし・・・)

この LCD の20ピン端子は、4つの LED 点灯用の配線も含んでいます。
下の図は、表面に付いている LED の状態です。
LED の配置は、個人的な希望としては一番左に電源確認用の「緑LED」が欲しいところですが、赤・緑・赤・赤の順に並んでいます。

裏面です。
20 ピンの FFC ケーブルが見えます。
データシートが見つからなかったので、裏のジャンパ(?)などの意味は不明です。

実際の端子の接続先です。

この LCD にはコントラスト調整用の端子はありません。I2C LCD のようにソフトウエアで制御することも出来ません。

RFC-7 の現在の姿です。
LCD に PX1602 を使ったので、横幅 100 mm のケースにピッタリ収まりました。

しかし、LCD にバックライトを付けていないので、普通の室内でも文字が読みづらいです。
何とかしたいなぁ。

バックライト試験

困った時の AliExpress です。
「EL ドライバ」などで検索してみました。
すると、「ネオン EL ライト」というものが見つかりました。

多分、ダイソーでも販売していた(現在は見かけない)「光るパーティーメガネ」(500円)と同じ物のようです。
(写真は「さくら もものこ」さんのブログ「ダイソー 光るパーティーメガネ」から引用)

EL(Electroluminescence)を長く伸ばして線状にした EL チューブを、電池を電源にした簡易降圧回路で駆動して光らせるものですね。
試しに、この電源部分を購入して試してみます。

簡易 EL ドライバ1

単3の乾電池2本を電源にしたタイプです。
本体上部のスイッチを押すと、常時点灯 – 点滅 – 高速点滅 – 消灯と切り替わります。

簡易 EL ドライバ2

USB 端子から電源を取るタイプです。
つまり、上のドライバは電源電圧 3 V、こちらは 5 V です。

点灯試験

RFC-7 に使っている LCD の EL 用電源端子に、電池式の「簡易 EL ドライバ1」をつないでスイッチを入れました。
RFC-7 の LCD にバックライトが点いて大変見やすくなりました。

同じ状態で EL バックライトを消した状態です。
うーーん、もうバックライトなしには戻れない感じです。

しかし、この簡易ドライバは無負荷では問題ありませんが、LCD のバックライトを点灯させると「きーーん」という耳障りな高音が聞こえます。
結構な年齢の私の耳でも聞こえるので、若い方なら気になって周波数の計測を続けたくなくなる程度の音だと思います。

「簡易 EL ドライバ2」でも点灯試験を行いました。
こちらも、バックライトを点灯すると、耳障りなコイル鳴き?の音が聞こえます。

その後、電源電圧を下げる(「簡易 EL ドライバ1」は 1.5 V、「簡易 EL ドライバ2」は 3 V)と音は小さくなりますが、気になる音は消えることはありませんでした。

安価(1個300円以下)な完成品を組み込む計画は中止となりました。
やはり、専用の EL ドライバ IC を使うべきですね。

専用基板の設計

専用の変換基板を設計します。
この基板には、HV859 を使った EL ドライバ回路を組み込みます。

RFC-7 に使用している LCD PX1602 は、20ピンのフラットな FFC ケーブルで接続するので、その接続用端子が必要です。
また、RFC-7 側のインターフェースは I2C なので PCF8574 を使用した I2C パラレル変換回路も必要です。

aitendo の PCF8574 インターフェースより引用

ついでに、電源用の 3.3 V レギュレータを搭載して、I2C が 5 V でも使用できるようにします。
それらの基板類を並べるとこんな感じです。

左から、I2C変換基板、FFCアダプタと3.3Vレギュレータ、ELドライバ回路

これらの回路を 5 cm X 3 cm 程度の基板に仕上げようと考えています。

KiCad で設計

KiCad でサクッと設計しました。
基板の配線図は、PCF8574 を使用した変換基板の公開されている回路図と EL ドライバ IC HV859 のデータシートの回路図を足したもの +α(右下にSC1602BSLB 用の端子を追加)です。

今回は動作試験基板なので、本来付けるべき I2C のプルアップ抵抗や PCF8574 の周辺回路など、市販基板で省略している部品は搭載していません。

完成予想の 3D 図です。(可変抵抗など一部の部品の 3D モデルを入れ忘れたため、搭載されていなく見えます。)

PCBWay さんへオーダー

初めて PCBWay さんにプリント基板をオーダーしてみました。
なお、今回の基板は PCBWay さんから提供を受けているので、以下で記載している金額は予想金額です。

現在、PCBWay さんでは初回のプリント基板製作代($5分)が無料になるキャンペーンを行っています。
KiCad で設計する手間はかかりますが、通信販売でユニバーサル基板を購入するより安価にプリント基板が手に入るので、是非、お試しください。

まず、ユーザー登録を行います。
続いて、KiCad で設計したデータを圧縮して準備しておきます。

製作する基板は、10 cm 四方以内で設計します。
このサイズなら、10枚までなら $5 なので初回無料の範囲内です。

データ送信

「Upload Gerber files」を押します。

開いた画面の「ガーバーファイルを追加」を押して、Zip に圧縮した基板のデータを送信します。

枚数の変更

自動で基板のサイズが読み込まれて反映されます。
必要に応じて、基板枚数を10枚にします。(標準は5枚になっています。)
10枚までなら、基本料金の $5 です。

その他のオプションは、特殊な基板を製作する時以外は、通常は変更しなくても大丈夫でしょう。
(今回は、一番下の方にあるメタルマスクも追加しました。)

基板のオーダー

画面右の「カートに追加」を押します。

「カートに追加」を押すと、こんな画面が出ますが、私の環境では一番下に、了解するボタンが出ませんでした。

マウスのホイールでスクロールすると窓の下部分が表示されるので、「Agree」を押してカートに進みます。

カート内の処理

カートの画面では、輸送方法を変更しました。
一番早くて丁寧な DHL の送料は $29.21(約4,200円)ですが、輸送日数が同じ(2~4日)の OCS が $9.77(約1,400円)なので、こちらを選びます。

オーダーする品目は、基板代 $5 とメタルマスク代 $10、送料が $9.77 と手数料に $1 が加わり、$25.77 ですが、初回割引が -$5 なので $20.77(約3,000円)になります。
メタルマスクを頼まずに基板だけなら $10.77(約1,500円)なので、少し高めのランチ代ぐらいですね。

オーダーすると、2日ほどで基板とメタルマスクの製造が完了しました。

工場から出荷された荷物は、出国側の税関を通過し、航空便で日本に到着後に税関検査が終了して、佐川急便で東京から北海道まで届きました。その間、4日ほどなので今までで最短でした。
合計で6日ですね。

他の基板メーカや AliExpress は、住所の入力がアルファベットの場合が多く、日本語ではない住所表記だと日本国内での輸送の際に時間がかかるようです。
今回、PCBWay さんのユーザー登録では、登録住所に日本の郵便番号と日本語で住所が登録できました。
他の海外便では日本国内の税関検査から自宅までの輸送に1週間以上かかっていたので、荷物に書かれた住所が日本語ではなかった事も影響しているのかもしれません。(未検証)

荷姿

プリント基板などが到着した時の荷姿です。
佐川急便で届きました。
箱に傷もなくキレイな状態で届きました。

DHL は取り扱いが丁寧なイメージですが、今回利用した OCS + 佐川急便は安価で、同じぐらい迅速に荷物が届きました。

内部です。
梱包材を取り除いた状態です。
しっかりと梱包材に包まれて送られてきました。
(今回、送料を節約するために、2種類の基板とメタルマスクを1度に注文しています。)

内容品

届いた基板とメタルマスクです。
基板は、しっかりと梱包材に包まれてシールされた袋に入っています。
メタルマスクは、曲がらないように2枚の板に挟まれています。

基板です。
細かな所も問題なく注文どおりに出来ていますが、良く見ると私の設計が良くなかったなと後悔した部分がいくつかあります。(最後の評価に詳細を記載します。)

メタルマスクです。
部品点数が少ないので、今回も自宅で作ろうかと思ったのですが、使用している EL ドライバ IC が MSOP で、ピン間が 0.65 mm と狭いので、初めてオーダーしてみました。
自家製の薄いプラ板で作った物との使い勝手を比較してみます。

部品の準備

自宅リフローをする前に、I2C 変換 IC を購入していなかったので、変換基板から取り外します。
この市販の基板(AliExpress で10個で600円)の IC と可変抵抗、コンデンサを利用します。

半田吸引機で端子を除去します。
この後、ヒートプレートに乗せて加熱したら、簡単に全ての部品が外れました。

自宅リフロー

プリント基板の脱脂をするために、アルコールで基板を洗浄してからメタルマスクにテープで固定しました。
そして、クリームはんだを塗布します。

ヘラで「シュッ」と押し付けて引くように、ゆっくりと余分なクリームはんだを除きます。
金属製のメタルマスクは、自宅でカッティングマシンで自作したステンシルとは次元の違う使い心地でした。
予算が許すなら、毎回、メタルマスクを注文したいと思いました。

メタルマスクを外してみます。
細かな IC の足まで、キレイにクリームはんだが乗っています。スゴイです!

電子拡大鏡を使って IC やダイオード、コンデンサ、抵抗、コイルを基板に載せます。

こんな感じになりました。
今回は、入力電圧が 3.3 V なので、電圧レギュレータ回路用の部品は搭載していません。
また、大型のシリアル式 LCD 用の端子も取り付けません。

ヒートプレートに基板を載せて、加熱します。
なお、ヒートプレートには足が付いていますが、その下が高温になるので、かならず金属製の板の上で作業を行います。
また、加熱後は有害な煙が出るので、十分な換気を行ってください。

基板の完成

変換基板の部品面です。
端子からの配線の取り回しの関係で、20ピン FFC コネクタは基板の裏側に設置します。
3.3 V レギュレータと可変抵抗は使用しないために未実装です。

可変抵抗以外の高さのある部品(コネクタ類)は基板裏側に取り付けました。
電源切替用と EL ON のジャンパは短絡しています。
左側の未実装の端子は、大き目の LCD(SC1602BSLB)用です。

RFC-7 へ組み込み

RFC-7 に組み込みます。
以前、変換基板を組み合わせて場所を取っていたものが、基板1枚にまとまりました。
(アルミ製のフタをする前に、変換基板は絶縁処置を行いました。)

動作確認

RFC-7 に電源を入れてみます。
1発で問題なく動作しました。
自分で設計したプリント基板なので、思ったとおりに動くか心配でしたが大丈夫でした。

基板をオーダーして自宅リフローで組み立てる楽勝な方法を知ってしまうと、ユニバーサル基板でコツコツ作るのが面倒になってしまいますね。

EL ドライバの異音はどうでしょうか?
耳を基板に近づけて音を聞いてみます。
私が確認した限りでは無音でした。

やった~! 成功です。

評価

実は、途中で紹介を忘れていましたが、KiCad で完成した基板の図面と完成した基板の形が違っています。
これは、2種類の基板を1枚にまとめる予定でプリント基板を設計した為です。
最初の変換基板の大きさは、50 mm X 30 mm ぐらいで、100 mm の基板に2枚並べられる設計でした。
これに、次回紹介する信号発生器の基板(80 mm X 60 mm 程度)を足すと、100 mm X 90 mm 位のサイズになるはずでした。

最初の基板データ

ところが、複数の基板を同一の基板にまとめると、色々な金額がプラスされて基板製作の価格が10倍以上になってしまいました。
そこで、I2C 変換基板だけで注文することにしたのですが、そのままでは基板サイズが小さいので両側にネジ穴を追加しました。
この基板だけなら、10枚で $5 です。

実際に製作した基板

ここで、基板サイズを大きくするときに部品配置を見直して、不良を修正すべきでした。

次回、基板を作るなら修正したいところ。
1 EL ドライバ IC(HV859)の横の抵抗2つのシルクの文字がない。
2 この2つの抵抗の間隔が近すぎる。
3 左下の 3.3 V レギュレータ関連部品の配置が狭い。
4 ジャンパ2か所の用途を表すシルクがない。(ジャンパの切り替えがどちらが何か分からない。)
5 I2C プルアップ抵抗用のパターンがない。

でも、今まで文字表示が見づらくて、別にライトを準備して表示器を照らしていた RFC-7 のバックライトが、点灯して見やすくなったので、満足度は90点です。

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