旧型端子をリニューアル1(GigaSt 編)

今回は、パソコンに接続する端子のお話です。
旧型端子を持つ器材(レガシーデバイス)を使いやすくリニューアルします。

私は、古い物も「いつか役に立つかも。」と思ってなかなか捨てられないので、作業部屋のジャンク箱には色々な物が眠っています。
その中でも、単体で動作せずにシリアルやパラレル通信でパソコンとつながって動くタイプの機材が沢山あります。
「これって、インターフェースがD-sub 9 ピンだけど、どうやってつないだっけ?」

動作確認のたびに取扱説明書を見て、変換ケーブルを探して、そのケーブルがストレートかクロスか確認して・・・
大変面倒ですね。

すでに現在のパソコンには「レガシーポート」は廃止されているので、USB 変換ケーブルを準備しますがドライバの関係で動作しないこともあります。
(自宅の USB 変換ケーブルの一部です。)

また、当然ながら電源は別に必要なので対応した電源アダプタを探すけれど、電圧は合っていても端子が違っていて、棚や箱の中の色々な場所を探すことになります。
これ、何とかしよう!

と言っても、現在はパソコンを持たずにスマホだけという方も多いので、懐かしい読み物程度としてお楽しみください。

GigaSt とは

いわゆる小型のスペアナです。
配布元の HP は、2017年3月21日に閉鎖されてしまったので現在は見ることが出来ませんが、青山さんという方が「Giga Site」というHPで配布されていたキットです。

21世紀の今でこそ、カラー液晶画面付きの簡易スペアナが安価で手に入りますが、20年ほど前にたった一人で高性能なスペアナ・キットを安価で提供していた青山さんはスゴイ方だと思います。

GigaSt のバージョンは Ver.5 まで確認できましたが、私の持っているのは Ver.4 です。
(Ver.5 はインターフェースは USB 接続で給電も USB です。 Ver.4 は RS-232 で給電は 6 V の DC アダプタです。)

発表年月日バージョン使用MCU対応OS上限周波数インターフェース
1999年2月Ver.1PIC16F84A DOS2 GHz
2000年5月Ver.2PIC16F873Windows4 GHz
2002年12月Ver.3H8-3664Windows
2005年7月Ver.4H8-3664Windows7 GHzRS-232
2008年2月Ver.5PIC24HWindows12 GHzUSB

購入したのが2006年頃なので15年以上前になりますね。
今回は、この GigaSt Ver.4 のインターフェース「RS-232」を USB に変更します。

いわゆる「RS-232C」とは

俗に「RS-232C」と呼ばれているものですが、これは「Recommended Standard 232 Version C」の略です。このバージョンには A から F まであるようです。
調べて見たら、このコネクタの名称で末尾にバージョンの「C」を付けるのは誤りのようです。

シリアル通信の用途に、元々使われていたコネクタは、25 ピンの「DB-25」でした。(意味は、D-Sub コネクタで、シェルサイズが「B」の25ピン)
ちなみに「D-Sub」の「D」はコネクタの形状が英字の「D」に似ていることから名付けられたようです。

その後、IBM 社がパーソナル・コンピュータを開発する際に、この「DB-25」コネクタは大きくて扱いづらいので、最低限必要な端子のみに要約した「DB-9」を作りました。
これが普及したために EIA で規格化したのが、「RS-232」「DB-9」コネクタです。

色々と調べてみると「D」で始まる D-Sub コネクタを使用した規格は、以下のようになります。
(2桁目の英字は、シェルサイズの規格)
DA-15:ゲームポート、Macintosh のディスプレイ
DB-25:元々のシリアルケーブルのコネクタ
DC-37:一部の SCSI 機器
DD-50:用途不明(見たことがないですね。)
DE-9:「DB-9」や「RS-232C」と呼ばれているもの。

話の流れ的には、IBM のパソコンが普及し始めて「DB-25」コネクタを簡略化して9ピンにしたコネクタを作ったので、「DE-9」と呼ぶところを誤って「DB-25」の9ピンだから「DB-9」と呼び始めたようです。
(写真は、Signal Origin 社の HP より引用)

まとめると、よく使用されている名称の「RS-232C」も「DB-9」も誤りという事になりますね。

正式に呼ぶなら、このコネクタは「EIA-574」で規定されたので「TIA/EIA-232-F」と記載するべきですが(これも本当に合っているか怪しいですし、面倒なので)、この記事では「RS-232」と呼びます。
(EIA-574 の原文の規格書を確認して、このコネクタの正しい名称を確認したかったのですが、$100 以上の高価な有料版しか見当たりませんでした。素人には規格書を見せないつもりなのかな?)

GigaSt の外観

小型スペアナ・アダプタの GigaSt Ver.4 の外観はこんな感じです。
GigaSt は基板のみのキットなのでケースは付いてきません。

アルミケースを購入して簡単な加工をして組み入れました。
すでに販売していませんが、テイシン社の「TC-113」というケース(サイズ 113x155x29)を使用した記憶があります。
(今見ると、いい加減な加工ですね。)

この時には忘れていましたが、分解する時に「これ、どうやって入れたんだ?」と思うほどキッチリと基板が収まっていました。(多分、ケースを曲げて基板を入れてから、組み立てる時に戻したのでしょうね。)

端子は SMA で基板から直接出ています。
左側が入力端子、右側が出力端子です。
中央の緑の LED は追加で付けた動作確認用の電源 LED です。

裏側はこんな風ですね。
左側に電源端子、右側にインターフェースの端子があります。
本来ならば、ノイズソース用の 10 V 出力端子が付くべきなのですが省略しています。

GigaSt の内部

このバージョンでは専用のユニットを採用しているように見えますが、以前のバージョンではテレビ用のチューナ・ユニットを改造したもので主要部品が構成されていたようです。

改造前の写真を撮り忘れました。
(写真は、青山さんの「Giga Site」の履歴から引用しました。)

こちらは基板の裏側です。
右下に見える「RS-232」の D-sub 9 ピンのコネクタを取り外します。

取り外しには「TDS3012 オシロスコープ NVRAM の電池交換」でも使った、白光の808(半田吸取器)を使います。
(Tektronix の有名なオシロスコープ、TDS3012 のバックアップ電池の交換手順は、リンク先をご覧ください。)

USB への改造

部品箱には USB 変換機を何種類か常備しています。

その中から、内部のユニットと干渉せずケース内に入る小型の USB 変換器を準備します。
今回は、変換チップに CP2102 が使われている小型 USB 変換器を使用します。

変換機用のケースを製作

USB 変換器を「RS232」の位置に収めるケースは、いつも使用しているフリーの 3D ソフトの Fusion 360 で設計して、3D プリンタで出力しました。

と言っても、一度で成功したわけではなく、3回ほど失敗して細部を調整しました。
(失敗例の数々)
これで、「RS232」のコネクタが設置されていた程度のスペースがあればネジ2本で固定できて、カンタンに USB に変換できるようになります。

USB 変換器の接続

USB 変換機の入出力を GigaSt へつなぎます。
確認のために GigaSt Ver.4 の回路図を引用します。

D-Sub 9ピンコネクタへの入出力は、ADM232 を使ってレベル変換をしています。
この IC は、ANALOG DEVICES 社の有名な「RS232」変換用 IC です。
数個のコンデンサを外付けするだけで、単電源でも「RS232」規格の正負の信号を作ってくれます。

あ、D-Sub 9ピンの端子を取り外しましたが、間違っても USB 変換機を D-Sub 9ピンの入出力へつないではいけません。
ここの信号は、遠距離でも確実な通信が維持できるように、最大で± 15 V 位の振幅の信号が流れています。
( USB 変換器の入出力端子は TTL/CMOS レベルなので最悪、故障の原因になります。)

USB 変換機をつなぐのは H8 3664 の
TXD:38 ピンに USB 変換器の RXD
RXD:37 ピンに USB 変換器の TXD
に接続します。
合わせて GND も接続しておきます。
(写真は、その後の + 5 V も接続した状態です。最初は接続しませんでした。)

元々、「RS232」は、クロック信号を持たず通信を行う調歩同期型(UART:Universal Asynchronous Receiver Transmitter)なので、クロック信号は必要ありません。
(USB 変換機の「DTR:Data Terminal Ready」は「RS232」の「DTR」と接続するべきと考えたのですが、回路図では何も接続されていません。つまり、フロー制御はしていないので、つながなくても動作しました。)

「RS-232」の代わりに USB 変換器で GigaSt をパソコンと接続して、外部電源で正常に動作することを確認しておきます。
(画面は動作例を引用しました。)

バスパワー化は可能か?

GigaSt Ver.5 は USB バスパワーで動いています。
1つ前の型である Ver.4 の説明にも、USB 由来のノイズを気にしなければ、USB バスパワー化は可能だと書かれていますが消費電流は 400 mA だそうです。
「450 mA を超えるようなら心配だなぁ。」
確認してみましょう。

USB 変換機の +5 V を基板へ接続します。
最初からパソコンにつなぐのは怖いので、モバイルバッテリを使います。

モバイルバッテリの出口で、誤差はあると思いますが 350 mA と出ています。
USB バスパワーの最大が 500 mA ですから使用に問題ない電流ですね。

GigaSt は簡易スペアナで、使用目的は波形がある程度の値で「見ることが出来る」ことですから、多少のノイズ増加よりも使い勝手の向上の方がうれしいです。
USB バスパワーで使ってみましょう。

合わせて、組み立てた時には取り付けていなかったノイズソース用の 10 V 電源出力も追加します。
ケース加工はアルミケースなので簡単です。

USB バスパワー化した状態で機能確認をします。
スペアナとしての機能は問題ありませんでした。
(まだ、ノイズソースは組み立てていません。)

GigaSt の組み立て

フタを閉めて完成です。
分解の時と違って、D-Sub 9Pin コネクタがないので、簡単にケースに基板を入れることが出来ました。
しかし、電源 LED の真下に基板固定用のネジを付けてしまったので、手が入りません。

ちなみに、基板をアルミケースから浮かせる M3 ネジ用のスペーサは、ダイソーの「アイロンビーズミックスセット」が便利です。
110円(税込み)で、沢山のスペーサが全国どこでも手に入ります。

正面は変化ありません。

後ろ姿です。
ノイズソース用の電源出力端子を追加しましたが、「RS232」端子がなくなり USB 変換器の収納ケースが丸型なのでスッキリした印象になりました。
電源端子は、しばらく使って問題なければ、シールか何かでふさぎます。

評価

「スペアナ」は、一時期はリアルなジャン測を2台持っていましたが、全然使わないし重くてデカいので処分しました。
でも、小型のスペアナ・アダプタである「GigaSt」は、小型で場所を取らないので残しておきました。

今までは、電源アダプタが別に必要なのと、使わないので箱の底の USB 変換ケーブルを探す手間が大変で使う機会が少なかったのです。

今回、USB 変換器を内蔵して USB バスパワー化することで使い勝手が飛躍的に向上しました。
この、GigaSt は、7 GHz までのスペクトラム・アナライザとしての働きに加えて、(専用の信号発生器とは違いますが)4 GHz までの信号発生器機能も持っているので、今後は色々なアマチュア的な実験には便利に使えそうです。

満足度は90点です。(ケースの加工が荒いのと、ノイズソースが未完成なためです。GigaSt の機能は100点です。)

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