Tektronix TDS3012 オシロスコープ NVRAM の電池交換

電池交換の3回目は、テクトロニクスのオシロスコープ TDS3012 の NVRAM(Non-volatile memory:不揮発性記憶装置)です。
NVRAM とは、パソコンなどの作動時間などを記憶しておく、RTC のバックアップ電池みたいなものです。

Tektoronix 製の計測器などのバックアップ用電池を検索すると「NVRAM」と記載されている例が多いのでマネをしましたが、電池が切れると中身が消えてしまうメモリを NVRAM と呼んでいいのか、少し疑問に思いますが、気にしないことにします。
(揮発性の不揮発メモリ(NVRAM)ですよね?)

この電池交換は、前回までのマニュアルどおりに蓋を開けて簡単に出来る電池交換ではなく、1日がかりの作業になります。

Tektronix TDS3012 を入手した

先日、ジャンクな TDS3012 オシロスコープを手に入れました。
今まで使っていたジャンクな国産オシロスコープの電源が、2回に1回ほど入らなくなったので「新しいものが欲しいな」と思っていました。
(写真は販売元の HP から引用した4チャンネルの TDS3014B です。)

その昔、私にとってオシロスコープと言えば「SONY Tektronix」でした。(年がバレますね。)
2002年までは、当時、「世界征服一歩手前」の SONY 社は、オシロスコープで有名な Tektoronix と対等な合弁会社を作っていました。(SONY の名が先に付いているので優位だった?)
他にも、当時の日本企業は製造に必要な計測器の会社を、系列会社として保有しているのが普通でした。

ネットにあるオシロスコープを、色々と見ていると妄想だけが膨らみます。
「以前使っていた Tek の 2465 も安くなっているなぁ。」
でも、考えてみれば CRT 式の計測器など大きくて置くところがありませんし、使用されている内部部品の劣化も進んでいるでしょう。

そんな中で、「ランチボックス型」で有名なテクトロニクス社の TDS3000 シリーズが目に止まりました。
使ったことのあるテックのオシロなら、操作に戸惑うこともないでしょう。
ネット上の評判も良いようです。

製品的には 1999年に製造が開始された商品ですね。四半世紀も前の商品です。
(1999年と言えば、月が地球から離れて宇宙をさまよい始めた年ですね。)
・TDS3000:1999年
・TDS3000B:2001年(イーサネット搭載)
・TDS3000C:2008年(内部形状など大幅変更、USB 搭載)

色々と継続して見ていると、画面が映らず、映った時にもシステムエラーが発生していて、ケースにはひびが入った本当のジャンク品を見つけました。
久々のオークションに入札したら、安価に手に入れることが出来ました。
これだけ不具合のある「クラシックな名機」ですが大丈夫でしょうか?
まあ、何とかなるでしょう。

画面が映らない事とシステムエラーとケースのひびは、今回の電池交換に関係ないので、この記事では触れませんが、何とか素人の私でも修復できました。

しかし、オシロスコープの電源を切ると日時が消えてゼロに戻ります。
症状的には明らかな NVRAM の電池切れのために、毎回、再設定するのは面倒です。
それじゃ、オシロスコープのバックアップ電池の交換、やってみよう!

情報収集

私が入手したのは無印の「TDS3012」です。
本当は LAN 端子が付いていて、簡単に波形などの情報をパソコンに取り込める「TDS3000B」シリーズか、RS-232 端子の出力アダプタ(TDS3GV など)付きが欲しかったのですが、正常動作品の「TDS3000B」シリーズは準備した予算では買えなかったので、PC との接続は自分で何とかすることにします。
(実は、もう自作の基板でパソコンとの通信は可能になっているので、次回でも記事にします。)

TDS3000 シリーズのバックアップ電池が切れる故障はよくあることのようで、日本語でも数件、英語なら沢山の情報が見つかります。
使用している NVRAM は、「DALLAS 社の DS1742W」です。

「TDS3000B」シリーズ以降では、この NVRAM に LAN 関係の情報なども格納されているようですが、私の無印ではマニュアルを確認しても「RS-232 と言語設定」の情報しか入っていないそうなので、安心して修理出来ます。

一応、
1 交換部品が入手できれば、新品の NVRAM に交換する。
2 交換部品が手に入ったら、取り外した NVRAM を分解・修理して次回の交換に備える。
の2段階で修理を進めます。

使用部品(DS1742W)の詳細

バックアップ用部品である「DALLAS 社の DS1742W」を調べてみました。
現在では、「Analog Devices社」に製造元が移っていますが、残念ながら製造中止品となっています。
(後ほどオシロスコープを分解して基板上の NVRAM を撮影しました。取り付けられていたのは DS1742W-120 でした。)

部品の概略
パッケージタイプ:24 Pin EDIP
メモリサイズ:2 kB
電圧:2.97 V ~ 3.63 V

NVRAM の外観

大手のネット部品屋や、モノタロウなどでは数年前までは扱いがあったのですが現在は在庫がないようです。
(製造後の寿命が10年間なら新品なのに破棄された部品も沢山ありそうですね。破棄予定の在庫が余っていないかな?)

eBay や AliExpress などでは現在でも入手可能なようですが、「DS1742W」互換として販売されている部品の中には正常に動作しない品も多くあるようです。
(上の写真のように、オリジナルには表面に羊と時計のような絵が描かれています。)
また、正規品は製造後かなりの年数が経過しているため、内蔵されている「コイン電池」の残量は残り少ない事が予想できます。(部品のマニュアルではバッテリの寿命は10年間です。)

この NVRAM は「Battery Flag bit (bit 7)」を確認することでバッテリが規定値以上の残量があるかの確認はできますが、残念なことに内蔵電池を直接計測する端子はありません。

同じ系列で「W」の付かない「DS1742-85」と「DS1742-100」は、電圧が 5 V なので使用できないでしょう。
「DS1742W-120」と「DS1742W-150」は電圧が 3.3 V なので、どちらを入手してもアマチュアが交換部品として使う分には大丈夫でしょう。(両者の差はグレードの違いのようです。)

代替品を探す

同じ形状で後継部品がないかを確認しましたが、見つけることは出来ませんでした。
色々と探していると、「DS1743」の互換基盤を製造・販売しているところは発見できました。

また、「DS1743」、「DS1744」や「DS1558W」などで「DS1742W」の互換品を自作されている方の情報も発見しましたが、どの情報も年数がたっているので、これらの部品も入手が困難です。

一番簡単に見えたのは NVRAM の表面を削って外部に電池ボックスを増設する方法です。
この方法なら、自宅にある部品と工具で何とかなりそうです。

TDS3012 の分解

TDS3000 シリーズは製造終了からずいぶんと時間がたっていますが、今でもサービスマニュアルを入手することが出来ます。
その取説を見ながら、オシロスコープを分解します。

注意
以下の手順は推奨されるものではありません。もし、この手順をご覧になって試した結果発生した故障などを補償することは出来ませんので、自己責任で行ってください。

ハンドルの取り外し

最初にハンドルを取り外します。
マニュアルには、ハンドルに付いている左右のカバーを外して、内部のピン(写真の赤丸部分)をペンチなどで抜けばハンドルが外れると書いてあるようですが、色々やっても取ることが出来なかったので、中央のボルト(トルクス・ネジ)も外しました。

ケース後部のネジ

さすがテックのオシロ!整備性は抜群です。
ハンドルさえ外してしまえば、本体を開けるにはケース後部のプリンタ用接続端子の下にあるトルクス・ボルトを1本外すだけで分解できます。

なお、製造後かなりの年数がたっている商品なので、プラスチック部分の経年劣化が進んでます。
強い力を加えるのはやめましょう。
(私は、ケースの白いプラ部分を多数破壊してしまいました。)

電源部などの取り外し

電源部などを取り外し、接続されているケーブルをコネクタから抜けばメイン基板にアクセスできます。
分解途中に掃除機と柔らかいハケを使って、内部にたまったホコリを掃除しました。

今回の電池交換とは関係ありませんが、内部のゴミを除去するために入力部分のシールドも開封しました。
また、スイッチの一部が接触不良になっていたので、端子の処置も行いました。

さすがは Tektronix ですね。
分解中に色々な場所で使われている電解コンデンサを確認しましたが、膨らんだりして異常な物は見つかりませんでした。

電池交換終了までに時間がかかりそうだったので、ケースのプラスチック部分は洗剤を付けて水洗いしてきれいにしました。

NVRAM の取り外し

メイン基板から NVRAM を取り外します。
愛用の半田吸取器を使います。
使った半田吸取器は白光の808です。
残念ながら2014年には販売が終了していますが、定期的に掃除をしているので吸引力は変わりません。

メイン基板裏側の NVRAM 装着部分の拡大写真です。
(なぜか2本のピンは内側に曲げられています。何か意味があるのかな?)

普通は、スルーホールの半田を除去するのに2~3度は吸引をしなければならないのですが、この基板は1度でキレイに半田を除去できました。
取り外した場所には IC ソケットを取り付けて NVRAM を簡単に交換できるようにします。

NVRAM の加工

NVRAM 内部には通常のボタン電池が内蔵されています。
場所は図のとおりです。
(内部が透視して見ている感じに、下の図を重ねてみました。)

内部の浅い部分
比較的浅い部分の左側に水晶振動子が、右側にボタン電池が入っています。
ボタン電池の上側にマイナス、下側にプラスの端子が溶接されています。

内部の深い部分
端子と同じぐらいの低い位置に基板が入っています。
(もちろん、これは概略図なので実際の形状とは違います。)

これから行う作業は、NVRAM の電池を固めているプラスチック部分の除去ですが、電池の横には水晶振動子が配置されているので、これを壊さないように注意します。
(左から6番目の端子より左側を掘ると危なそうです。)

内蔵されているボタン電池は「CR1225」です。
通常の量販店などでは入手できないタイプの電池です。
「1225」が表すサイズは、直径:12.5 mm 、厚さ 2.5 mm です。
(サイズが同じ「BR1225」なら、色々なところで容易に入手可能です。)

家の鍵の電池交換(CR2032)」で解説したように
CR:正極が二酸化マンガン、負極がリチウムで、出力電圧が 3 Vで丸型
です。

Amazon などのネット通販では「CR1225」は入手可能ですが、(アマチュア的には)出力が 3.3 V 出れば良いので家に沢山在庫がある「CR2032」を使います。
この電池なら、電池ケースも在庫があります。
電池の容量はサイズに比例するので、直径:20 mm、厚さ:3.2 mm と大きい「CR2032」の方が長持ちするはずです。

まずは、精密ノコギリで NVRAM の表面から 2 mm 位の所を除去します。
使用したのは、模型などの細かな工作に最適なオルファの「クラフトのこ」です。

加工後の写真です。
(万力で挟んでノコギリで切断している写真を撮り忘れました。もう2度と撮れません。残念)

ボタン電池のマイナス側の端子を電池から外します。
軽く溶接して止まっているだけなので、先の薄いマイナスドライバなどで簡単に外れました。

上で紹介した図のとおりに電池のプラス側は深い位置で内蔵された基板と接続されています。
電池の側面には半田付けが出来ないので、少し深く掘って端子に半田付けします。
(この写真はプラス端子を掘っている途中の物です。)

「CR2032」の電池ケースを接続し、絶縁処置をして完成です。
(電池を入れるのをお忘れなく。)

メイン基板に増設した IC ソケットに、改造した NVRAM を取り付けたら完成です。

本当ならば、埋め込まれているボタン電池を除去したほうが将来的な液漏れなどの心配もないのですが、下手にプラ部分を掘って内蔵された基板を破壊しては、私の技術では修理できないので、何か不具合が起こるまではこのままで行きます。

分解した逆順で本体を組み立てます。

動作確認

電源を入れて設定画面で日付を入力して電源を落として、念のために電源ケーブルも抜きます。

さて、少し休憩してから電源を入れてみます。
(電池交換前に、LCD の表示不良とシステムエラーは修理が終わっています。)

画面右下の日付と時間が消えずに残っています。
NVRAM の電池交換は成功しました!

自己診断でエラーはなく、オシロスコープ単体で行える簡易校正も合格したので問題なく使える計測器が手に入りました。

この後は、本体のバージョンが最新ではない(3.39)ので、最新のもの(3.41)に更新します。
でも、この時代のオシロスコープのバージョンアップにはフロッピーディスクが4枚必要なんですね。

まぁ、USB FDD も残してあるし、メディアも在庫があるので大丈夫ですが、しばらく使っていない磁気メディアにカビが発生していないか気になります。
その時には、「GOTEK FDD Emulator」もあるので何とかなるかな?

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