周波数カウンタを作る企画の 13回目です。
今回は、予定どおりにプリスケーラ基板の組み立て方を解説します。
まず、プリスケーラの基礎と基板の製作を振り返り総集編的に記載した後に、プリスケーラ基板の組み立て方を書きます。
保有部品の関係でプリスケーラ基板は2種類ありますが、必要な部品が秋月電子で手に入る「uPB1507」を使用した方をメインで扱います。
今回の記事は、プリント基板製造の PCBgogo さんに提供を頂いています。
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今までの各回の概略は下のとおりです。
1 siliconvalley4066 さんの「STM32F103C8T6で192MHz周波数カウンタ」を見て、この企画がスタート。TTL レベルで 66 MHzまで計測
2 市販品のアンプ(20 dBm 程度)をつないで 53 Mhz まで
3 手持ちの部品でブレッドボード上に作ったアンプで 24 MHz まで
4 自作基板でプリスケーラの機能確認(1/256、1/512)
5 おじさん工房さんの RFC-5 を組み立てる。測定周波数は ~ 1.3 GHz(プリスケーラあり)
6 RFC-5 のアンプ(120 MHz まで計測可能)と他の MCU(20 Pin)で動作確認
7 カウンタの入力を切り替える実験(40 MHz 程度までは切り替え可能)
8 RFC-5 をプリント基板化する前のアンプ類の接続方法の検討
9 RFC-5 のプリント基板の製造とオーダー
10 RFC-5 のプリント基板の動作確認が終了(測定上限周波数 190 MHz)、基板の無料配布を開始
11 RFC-5 プリント基板の組み立て方
12 RFC-5 プリント基板アンプ回路の評価
周波数カウンタを作る企画の区切りとして、RFC-5 周波数カウンタ基板の「無料配布」を始めました。カウンタ基板の在庫と配布の詳細は10回目の記事をご覧ください。
「無料配布」基板には、周波数カウンタ基板以外にも今回紹介した2種類のプリスケーラ基板が含まれます。
(以下のリンクは、前回のアンプ回路の評価の記事です。)
プリスケーラ
「プリスケーラ」(prescaler:分周器)とは、誤解を恐れずに言うと周波数を 1/2 にするデジタル回路の集まりです。内部の回路はフリップフロップが使われているようです。
プリスケーラの基本回路
プリスケーラの基本構成は、論理回路の教科書で最初の方に出てくる JK フリップフロップ回路です。
(下表は、JK クリップフロップの動作)
入力 J | 入力 K | 出力 Q |
0 | 0 | 保持 |
0 | 1 | 0 |
1 | 0 | 1 |
1 | 1 | 反転 |
JK フリップフロップ回路は入力信号を 1/2 にすることが出来ます。
これを2つ接続すると、出力周波数は 1/2 × 1/2 = 1/4 になります。
さらに接続すると、任意の分周比に設定できます。
この回路を集積したのがプリスケーラ IC です。(実際の細かな内部構成は異なりますが。)
プリスケーラ IC は、用途に合わせて複数個の IC を組み合わせて、必要な周波数に分周して出力することが出来ます。
市販されているプリスケーラ IC は、とても高い周波数を分周することが出来ます。
これは、その昔スーパーコンピュータでも使用されていた ECL(Emitter Coupled Logic)という素子を使う事で実現しています。
ECL の動作原理の解説は長くなるので省きますが、論理判断の電圧差を小さく(0.8 V)し、常に大きな電流を流し続けることでスイッチ動作を高速にできる素子です。
プリスケーラ IC の出力信号は ECL なので、通常の TTL IC 等を直接接続しても正常に動作しません。
ECL 素子を使ったプリスケーラ IC の出力には、レベルコンバータが必要です。
プリスケーラの発明者
スマートフォンやパソコン、時計の「主要構成品」であるオシレータとプリスケーラの(実用的な製品の)発明家は日本人です。
実際には安定度の悪い水晶振動子や電子回路としてのフリップフロップ回路は以前からありましたが、現在の様な小型で高安定な周波数源と分周回路を発明したのは、佐賀出身の古賀 逸策 教授です。
1930年頃には、すでにアメリカなどでは水晶振動子を発振源に使用する方法が開発されていましたが、温度変化による周波数の変動が大きく、水晶を大型の恒温槽に入れて何とか使っている状態でした。
この水晶振動子を使った装置は、今で言うと高安定なセシウム原子時計のような大型装置でした。
古賀教授は、1932年に特殊な方法で水晶を切り出すことで高安定な水晶振動子(温度無依存水晶振動子)を作り出す方法を編み出します。(一説によると、山梨県甲府市の宝石貴金属研磨会社で井口章氏から水晶のカット技術を学んだとあります。)
ちなみに2024年現在の全世界の水晶発振器の市場規模は、29.9億ドル(約4700億円)と言われています。(https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/global-crystal-oscillator-market-industry)
古賀教授が製法の特許などを世界規模で取得して独占販売する会社でも作っていれば、スゴイ事になっていましたね。
さらに、1937年にプリスケーラ(分周器)を発明することで「古賀型クォーツ時計 KQ1」を完成させ、パリ万国博覧会に出品しました。(出典「一九三七年「近代生活ニ於ケル美術ト工芸」巴里万国博覧会協会事務報告」 第四節 出品物の選定)(写真は、東京科学大学(旧・東京工業大学)大岡山キャンパス百年記念館より引用)
この時計は国立天文台に寄贈され時間標準の実験装置となり、改良された KQ6 は,1955 年に周波数標準および標準クロック用として設置され、1968 年まで国際通信に使用されていました。
古賀教授はその他の業績が認められて、1963年に文化勲章を受章、1971年に定員17名の日本学士院会員終身会員(日本版アカデミアの会員)、2017年にIEEEマイルストーンに認定されました。(Wikipedia 情報です。)
でも、著作一覧を見ると「圧電気と高周波」などの専門書以外に「誰にも出来る ラジオの故障修理」なんて電子工作本を書いているとは、古賀教授すごいです!
(記事内容は「古賀逸策(1899-1982) 「温度に影響されない水晶発振器の発明」」、一般社団法人 電気学会 第4回 でんきの礎より引用。古賀教授の写真は東京工業大学の HP より引用)
ちなみに、腕時計で有名な SEIKO 社の HP の「クオーツ時計の誕生」では「セイコーはクオーツ時計の小型化・実用化に取り組みます。1958年に放送局用水晶時計を開発し、1959年に納入していますが、大型ロッカー並みのサイズ」であった。と書かれています。
しかし、実際には古賀教授が1937年には、小型の時計 KQ1 を完成させています。
(以下の写真は、SEIKO 社 HP より引用)
また、「セイコーは1964年開催の東京オリンピックで公式計時を担当する意思を固め、オリンピック用の卓上型クオーツ時計の開発に拍車がかかります。卓上型の一号機が完成したのが1962年」と書かれていますが、古賀教授の KQ6 はすでに1955年に周波数標準として採用されていますが、この記載では完全に無視されています。
まあ、「オリンピック用の卓上型クオーツ時計の開発」を日本で最初に行ったのは SEIKO 社なので、嘘は付いていないという論理なのでしょうが、おそらくこのクオーツ時計にも古賀教授が開発された高安定の水晶振動子を使っているはずです。(小型化されて見た目も洗練されていることは否定しません。さすがSEIKO )
さらに「クォーツ時計は1927年にアメリカのマリソンが発明し、日本でも1937年に古賀逸策が国産第一号のクォーツ時計を開発しています。」という記載も気になります。
実際には、アメリカのベル研究所が持てる技術力の全てを注ぎ込んで開発したクオーツ時計は大型のロッカーサイズまでしか小型化できなかったのに、古賀教授が現在のクオーツ時計の元となる室温でも高安定で小型のクオーツ時計を発明した事で、その後のクオーツ時計の小型化や腕時計化が可能になった事を(わざと?)省略して「国産第一号のクオーツ時計」としか書いていない点が、少しモヤットしますね。
このように他人の成果を省略したり自社の開発のみを記載せずに、しっかりと同じ日本人の偉業を取り上げた方が(私の様な者には)良い印象を与えられると思うのですが・・・
保有プリスケーラ IC
話が大きくそれました。
プリスケーラ基板の製作に戻ります。
部品箱で見つけたプリスケーラ IC は、以下の12種類です。(他にもあるかもしれませんが、どこで購入したかも覚えていません。良く集めたものです。)
以下のリストは名称・対応周波数・分周比・動作電圧の順です。
富士通
MB501:10MHz-1GHz、64,65,128,129、+5V
MB503:10-200MHz、16,17,32,33、+5V
MB504:10-520MHz、32,33,64,65、+5V
MB506:100MHz-2.4GHz、64,128,256、+5V
MB507:100MHz-1.6GHz、128,129,256,257、+5V
NEC
uPB581:500MHz-2.8GHz、2、+5V
uPB1507:500MHz-3GHz、64,128,256、+5V
uPB1508:500MHz-3GHz、2、+5V
(このブログでは型番の頭の「マイクロ」を「u」で代用しています。)
東芝
TD6127:400MHz-1GHz、64,65,128,129、+5V
TD7104:50MHz-1GHz、2,4,8 、+5V
MOTOROLA
MC12034:500MHz-2GHz、32,33,64,65、+5V
Hittite
HMC363:200 MHz-12GHz、8、+5V
この中から、使いやすそうな IC を選びます。
なお、「HMC363」は周波数範囲が非常に広くて良さそうですが、事前試験で基板化した際に、高周波の素人では扱いが大変なことが分かったので最初に候補から外しました。
使用するプリスケーラ IC
プリスケーラ IC には、部品箱の在庫の関係などで下の2種類を選びました。
1 MB506:100MHz-2.4GHz、64,128,256、+5V
2 uPB1507:500MHz-3GHz、64,128,256、+5V
1個目は富士通の「MB506」です。(現在は正規品の入手は難しそうです。よく確認しないで海外から購入すると偽物が届くようです。)
この IC は、秋月電子のキットにも採用され、少し前の電子工作では良く使われていた、プリスケーラ IC の定番ですね。
AliExpress や Amazon 等で販売されている完成品のプリスケーラ基板もこの石を使ったものが多いです。(MB506 を使った完成基板には、後で説明する「ECl – TTL 変換回路」は付いていません。)
2番目はNEC(現:ルネサス)の「uPB1507」です。
こちらは現在でも秋月電子で購入可能なので選びました。(販売コード:101341、400円)
秋月電子では他にも「MC12080DR2G」というプリスケーラ IC を販売しており、これを使った基板の完成品も扱っていますが、上限周波数が 1.1 GHz と上2つの IC(3 GHz 程度)よりかなり低いので採用しませんでした。(「MC12080使用プリスケーラーキット」販売コード:115487、1,200円)
ECL – TTL 変換回路
プリスケーラ IC は、高速動作をさせるために「ECL」規格で動作しています。(0.8 V 論理)
どちらのプリスケーラ IC も出力は ECL のはずです。
一応、データシートを調べておきましょう。
MB506:1.6 V p-p
uPB1507:2.6 ~ 4.7 V p-p
あれ?「uPB1507」は直接 CMOS ドライブが可能と書かれています。
先入観を持たずに、ちゃんと調べないとダメですね。
ネット上の製作例を見ると MB506 も uPB1507 も出力には「ECl – TTL 変換回路」が付いています。
しかし、データシートの記載が正しければ uPB1507 には変換回路はいらないのかな?
前回の実験で MB506 の出力にある「ECl – TTL 変換回路」をバイパスして実験したところ、測定できる下限周波数が上がった(60 MHz → 120 MHz)ため、製作する2種類のプリント基板上には、どちらにも「ECl – TTL 変換回路」のパターンを付ける事にします。(実験して不要ならバイパスします。)
使用する回路の検討
前回使用したプリスケーラ基板は、GBPPR(Green Bay Professional Packet Radio)さんの「13 GHz Frequency Counter Prescaler」をそのまま作りました。
この回路では「ECl – TTL 変換回路」に専用 IC(MAX961)を使っています。
しかし、現在ではこの IC は入手が困難なので他の方法を考えます。
(前回使用した MAX961)
採用した回路
「ECl – TTL 変換回路」を国内外の色々な情報で検討してみました。
その中には旧型の金属缶のトランジスタ1個を使った回路から、ECL 変換専用の IC を使った回路まで様々な方法を見かけました。
最終的に「博物電機研究所」さんの「実験」のページ「テーマ4:レベル変換回路」を参考(そのまま使わせてもらいます。)にしました。
こちらの記事では汎用のロジック IC(74HC04)を使用して、5種類の回路を検証しています。
ブログ主の所長さんによると、その発端となったのは初期型の秋月電子 MB506 使用プリスケーラ・キットが正常に動作しなかった事です。
そして実験の結果、改良回路を使用したところ入力が 100 mVp-p 以上あれば MB506 データシートどおりの 2.4 GHz まで計測できるプリスケーラになったそうです。
つまり、秋月電子の「高感度・広帯域 2.4GHzプリスケーラ・キット Ver.2」回路の元祖?ですね。
(現在販売している「MC12080使用プリスケーラーキット」でも同様の回路を使用しています。)
基板の作図
では実際に KiCad で作図を行います。
入力予定の信号の上限は 3 GHz 以下ですが入力端子には BNC(BNC 端子のカタログ値は上限が 4 GHz まで) ではなく、SMA(18 GHz)を使います。
プリスケーラ基板の出力端子は、入力周波数の 2.4 GHz(最大値)を 1/256 すると 10 MHz 以下になるので BNC を使います。
なお、プリスケーラを使用する時には基板用メスの BNC コネクタを使う事で、RFC-5 周波数カウンタと「合体」するように作ります。
使用する周波数帯が GHz 帯の回路なので基板の厚さや材質にも気を付けるべきでしょうが、今回は通常の基板で実験してみます。
なお、「ECl – TTL 変換回路」の引用元では 74HC04 を使用していましたが、この IC は 14 ピンで場所を取るので MSOP-8 の TC7WU04 を使ってみます。(データシートでは動作速度は同じ程度でした。tpd = 6 ns)(秋月電子 販売コード:110462、150円)
完成したMB506 を使用した基板です。
プリスケーラ IC は在庫の関係で DIP タイプです。
その他の部品は、周波数カウンタで使用する 1608M サイズの SMD 部品を使いました。
uPB1507 を使った基板です。IC サイズは SSOP-8 なのでかなり小型化できました。
(こうやってみると、小型だと思っていた BNC コネクタの大きいこと!)
基板の単価を抑えるために、毎回オーダーの最大サイズは 10 cm にしていますが、両方のプリスケーラ基板を並べてちょうど 10 cm に入りました。(切断幅 3 mm を含む。)
完成したプリント基板データ
オリジナルの周波数カウンタ、20 ピンバージョン、2種類のプリスケーラなど全ての KiCad の作図が終了したので、1つの基板(10 cm X 10 cm)にまとめました。
発注先はいつもの PCBgogo さんです。
複数基板を配置して V カットを付けると製作代金が高価(2万円位)になったので、各部をGND でつないで1枚の基板(?)になっています。
この状態なら10枚で $5(+送料)でオーダー可能です。
一部の部品が乗ってませんが、プリント基板全体の完成予想 3D 図です。
オーダー基板が到着
PCBgogo さんにオーダーしたプリント基板が到着しました。
今回も KiCad のデータ圧縮して送信したら、すぐに日本語で連絡(2時間ぐらい?)が来ました。
下の表を見てもらえると分かりますが、製作指示をしてから24時間かからずに基板が完成しました。
(すごい早さです!これを見ると自分で基板をエッチングして作る気力がなくなりますね。)
今回は送料の安い OCS で頼みました。(送料は $16 です。)
OCS を使うと国内輸送は佐川急便で届きます。
追記
最新情報です。
PCBgogo さんでは1日で日本に届く OCS 便の送料が今までは $16(約2500円)でしたが、$7(約1000円)に値下がりしました。
今回は値段が下がる前の感想ですが、次回は安価になった OCD 便を使用して到着日数などに違いがあるか確認してみます。
パッケージは、PCBgogo さんの正方形の白い箱に入って到着しました。
(今回は梱包の写真を撮り忘れたので、下の2枚の写真は以前の荷姿です。
内部は、真空パックされたプチプチに丁寧に包まれていました。
開封してみても、基板に傷などはありませんでした。
RFC-5 用プリント基板の組み立て
オーダーした基板の1枚です。指定どおりにいくつかの基板がつながった状態ですが、それぞれの基板の切れ目に横長の穴を開けました。
この基板の1枚の大きさは 10 cm × 10 cm ですが、RFC-5 オリジナルの基板は一番上の部分になります。
そして、今回使用するプリスケーラ基板は2段目です。
向かって左側が uPB1507、右側が MB506 を使った基板です。
必要な部品
プリスケーラ基板を製作するのに必要な部品は、以下のとおりです。
uPB1507 バージョン
・uPB1507:プリスケーラ IC:秋月電子 販売コード:101341、400円
・TC7WU04 :秋月電子 販売コード:110462、150円
・コンデンサ:1000pFx2, 0.01uF, 0.1uF
・抵抗:50Ω, 2.2kΩ, 10kΩx2, 1MΩ(50Ωは51Ωで代用)
・フェライトビーズ:秋月電子 販売コード:110766など、100円
(抵抗、コンデンサとフェライトは、0603(1608M)サイズです。)
・BNC コネクタ
・SMA コネクタ
・電源用端子
MB506 バージョン
・MB506:プリスケーラ IC
・TC7WU04 :秋月電子 販売コード:110462、150円
・コンデンサ:220pFx4, 0.1uF
・抵抗:50Ω, 2.2kΩ, 10kΩx2, 1MΩ(50Ωは51Ωで代用)
・フェライトビーズ:秋月電子 販売コード:110766など、100円
(抵抗、コンデンサとフェライトは、0603(1608M)サイズです。)
・BNC コネクタ
・SMA コネクタ
・電源用端子
基板の切り出し
基板の切り出しには、自作した丸のこを使いました。
各基盤のつなぎ目は、今回は横穴を開けてもらったので切断は楽でした。
実際に切り出してバリをヤスリ掛けした基板です。
クリームはんだの塗布
OLEDオシロスコープ基板の時と同じく、カッティングマシーンでステンシルを作ります。
透明な薄いプラ板をクラフトロボで切り抜きます。
出来上がったステンシルを、アルコールで洗浄・脱脂した基板に貼り付けます。
プリント基板にクリームはんだを塗布する際には、弾いて付きが悪くなるのを防ぐために必ずアルコールで拭いてから行いましょう。
写真に写っている青いレバー状の物は、AliExpress で購入(300円程です。)した「クリームはんだ押し出し機」です。
レバーを押し込むことで、微量のクリームはんだを楽々出すことが出来ます。
おススメです。
(最初、後ろからつけようとして「ハマらないじゃん。これ、不良品か!」と悩んだのは秘密です。実際にはネジを短くして前からはめます。)
ちなみに、今回使用した ECL-TTL 変換回路用の IC は、MSOP-8 という極小サイズの TC7WU04 です。
本当ならばもう少し大きい IC を使いたかったのですが、秋月電子の取り扱いがこのサイズしかなかったので初めて MSOP-8 サイズの部品を使いました。
このサイズになると、自作のステンシルではキッチリと足の部分にクリームはんだを塗布するのは大変困難です。(手半田は私には絶対無理です。)
何度やっても、クリームはんだが細かな IC の端子部分がつながってこんな感じになってしまいます。
でも、こんな状態でも IC を乗せて自宅リフローすると、勝手に良い感じに半田付けされて正常動作しました。
部品の配線図と配置図
uPB1507 を使用した方のプリスケーラ基板の配線図です。
部品配置図です。
基板上に「0.2u」と書かれた部品はコンデンサでもコイルでもなく表面実装タイプのフェライトを使いました。
なお、搭載した IC の定格を上回るような入力を入れるつもりはないので、入力保護用のダイオードは搭載しませんでした。
次が MB506 を使用した方のプリスケーラ基板の配線図です。
uPB1507 とほとんど同じような部品の配置ですが、それぞれの値はデータシートどおりの物を使っています。
部品配置図です。
1つの 10 cm X 10 cm の基板に乗せるために、uPB1507 とは左右対称の部品配置になっています。
こちらも入力保護用のダイオードは乗せませんでした。
部品の搭載とリフロー
チップ部品を基板に乗せます。
非常に小さい部品もあるので、モニタ付きの電子拡大鏡を使います。
なんとか全ての部品を乗せ終わりました。
この後、ヒートプレートに乗せて自宅リフローしましたが、修正しながら見ていたので写真を撮る余裕がありませんでした。
今回も周波数カウンタ基板と同じように、加熱すると2~3個の SMD 部品の向きが動きましたが、あわてずに先の細いピンセットで優しく・ゆっくり修正すれば OK でした。
リフロー後の基板です。
入力保護用のダイオードは装着していません。
MB506 を使った基板です。
こちらも入力保護用のダイオードは装着していません。
必要な部品の取り付け
BNC 端子、電源端子を取り付けます。
最初は部品面側に端子を付けましたが、周波数カウンタに干渉する恐れがあったので裏側に取り付けました。
1つ目が uPB1507 のプリスケーラです。
2つ目が MB506 を使ったプリスケーラです。実際にはこちらの方が横幅が大きいです。
プリスケーラの性能を測定
完成した RFC-5 周波数カウンタの BNC 端子に、プリスケーラを取り付けた状態で測定します。
この RFC-5 はプログラムを変更して I2C タイプの小型 LCD を変換基板を使わずに直付けしています。
ケースは3D プリンタで試作中の物で、リチウム充電池は外付けです。
その周波数カウンタ入力に合体させる形で、uPB1507 を使ったプリスケーラ基板を取り付けます。
uPB1507 のデータシート上の対応周波数範囲は、500MHz ~ 3GHz、MB506 は 100MHz ~ 2.4GHz です。
まず、最高周波数を確認します。
RFC-5 の設定で倍率を変更しておきます。
周波数カウンタの分周比の設定は、左スイッチの長押しでメニューモードに入ります。
「4.PSC DIV」(プリスケーラの倍率設定)が表示されたら、右スイッチ長押しで選択モードに入ります。
左右どちらかのスイッチで「x256」になったら右スイッチ長押しで保存します。
保存しておくと電源を切っても設定値は記憶されています。
信号発生器の周波数を 1 GHz から周波数を上げていきます。
下の写真のとおり、3.3 GHz 以上が計測出来ました。試験中の信号源なので検出できるか心配だったのですが、思った以上に高い周波数まで計測出来ました。
画面表示は、1行目が測定周波数、2行目にプリスケーラの倍率、MCU の温度、ゲート時間です。
(ケースが試作品なので LCD の向きが思ったのと180度違ったのは内緒です。)
続いて MB506 プリスケーラ IC を付けて測定します。前回の試作基板で計測出来た最高周波数は 1.3 GHz でした。
今回の基板では 2.6 GHz 程度まで計測出来ました。
どちらも前回の試作基板と比べると十分な測定結果が得られました。
続いて最低周波数を測定します。
uPB1507 から計ってみます。最低周波数は 240 MHz まで計測出来ました。
MB506 は試作基板で最低測定周波数は 70 MHz でした。
今回はなぜか 220 MHz 止まりでした。ちょっと残念な成績です。
2種類のプリスケーラを取り付けて計測できる周波数をとりまとめるとこんな感じですね。
データシート 最低周波数 | 測定 最低周波数 | データシート 最高周波数 | 測定 最高周波数 | |
uPB1507 | 500 MHz | 240 MHz | 3 GHz | 3.3 GHz |
MB506 | 100 MHz | 220 MHz | 2.4 GHz | 2.6 GHz |
試作基板と比較して、最高周波数は良い感じまで計測できるようになりました。
しかし、最低周波数は思ったほど下がりませんでした。
特に MB506 を使った方は、データシート上の値が 100 MHz、試作基板で 70 MHz まで見ることが出来たのに 220 MHz までというのは少し納得がいきません。
信号源の変更
今回使用した信号源は、現在試作中の ADF4351 を使用した広帯域の信号発生器を使いましたが、一応、前回使用した FRMS でも試験してみます。
まずは uPB1507 です。
こちらは FRMS + FREX の最大周波数である 200 MHz までの周波数を検出できませんでした。
まあ、データシート上の性能下限が 500 MHz で 240 MHz まで計れたのでOKですね。
次に MB506 です。
前回の試作基板では、この環境で 70 MHz まで計測出来ましたが・・・
72 MHz なので、今回もほぼ同じところまで測定できました。
測定周波数のまとめ
今回、2種類のプリスケーラを取り付けて色々と測定してみました。
これで、製作した「RFC-5 周波数カウンタ基板」の能力が分かったのでまとめてみます。
プリスケーラなし。
アンプの種類 | 上限周波数 |
5倍アンプ(180Ω) | 170 MHz |
20dB アンプ | 90 MHz |
5倍アンプ + 20dB アンプ | 90 MHz |
5倍アンプ(200Ω) | 190 MHz |
SBB5089Z アンプ直付け | 300 MHz |
SBB5089Z アンプ + 5倍アンプ | 370 MHz |
プリスケーラあり。
データシート 最低周波数 | 測定 最低周波数 | データシート 最高周波数 | 測定 最高周波数 | |
uPB1507 | 500 MHz | 240 MHz | 3 GHz | 3.3 GHz |
MB506 | 100 MHz | 70 MHz | 2.4 GHz | 2.6 GHz |
次回の予定
プリスケーラ基板の機能確認が出来たので、周波数カウンタとしては一応の完成です。
「周波数カウンタを作る」企画の当初の目的は、
以前、製作した PIC16F84 を使用した周波数カウンタと同等性能の
・通常入力で周波数上限:60 MHz
・プリスケラを付けて周波数上限:2.4 GHz
・ 周波数安定度を保つために TCXO 内蔵
でしたが、全ての性能を上回るものを作ることが出来ました。
しかし、おじさん工房さんが設計された「20 dB 低雑音アンプ」は、500 MHz 位までは 20 dB の増幅率を誇る高性能のはずですが、私の拙い基板製作技術では 90 MHz 程度までしか機能していません。(1/5 以下!)
ここを改善できれば、uPB1507 を使用したプリスケーラで切れ間なく 3 GHz 以上まで計測出来るようになります。
これは何とかしたいなぁ。
また、現在は試作段階の周波数カウンタ用のケースも、完成させたいです。
(現在は、LCD が180度逆向きなのと、バッテリが内蔵できていません。)
特にプリスケーラ部分は、まだ基板がむき出しの状態なのでケースに入れたいですね。
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