以前、ドイツにお住いの DD7LP さんが設計した広帯域信号発生器(主要部品は ADF4351 評価基板と Arduino NANO)を組み立てました。(詳細は以下をご覧ください。)
この信号発生器は、出力周波数範囲が 35 MHz ~ 4 400 MHz という広帯域です。
しかし、前回の作品はオリジナルから省いてしまった回路がいくつかあって、動作が不安定な感じがします。
そこで、ケースはそのままでプリント基板を設計して中身を一新しました。
なお、以下で記載している信号発生器の著作権は DD7LP さんに帰属します。商業利用など個人で製作する以外での利用は認められていません。
The copyright of the signal generator described below belongs to DD7LP. Any use other than personal production, such as commercial use, is not permitted.
今回の記事を書くために製作したプリント基板とメタルマスクは、PCBWay さんに提供を受けています。
よろしければ、下のリンクのクリックにご協力ください。

ADF4351 評価基板
この信号発生器の心臓部である評価基板で使用している ADF4351 は、アナログ・デバイセズ社の VCO 内蔵 広帯域シンセサイザ IC です。
その主な機能は、以下のとおりです。
・出力周波数範囲:35 MHz ~ 4 400 MHz
・低位相ノイズ
・電源電圧:3.0 V ~ 3.6 V
・プログラマブルな出力パワー・レベル(4段階)
・3線式シリアル・インターフェース(SPI)
・高速ロック・モード(周波数ロックが早い)
スゴイ広帯域ですね。(理想を言えば、0 からスイープして欲しいですが。)
DD7LP 信号発生器の製作
この ADF4351 評価基板を使った製作例を探してみました。
すると、キャラクタ式の LCD とタクトスイッチを使った信号発生器が見つかりました。
しかし、出来れば信号発生器はノブを回して周波数を制御できる方が使いやすいですね。
新しくプログラムを作らなければダメかな?私の能力じゃ無理そうかも・・・と諦めかけた時に、希望どおりの信号発生器を見つけました。
製作者は「DD7LP」さんで、製作はすでに8年前の2017年ですね。
DD7LP さんのドイツ語のブログを拝見しました。(Google 翻訳は便利ですね。)
この信号発生器は、下の写真のとおり TFT 液晶を使いカラーで情報が表示されて、ノブで周波数などの調整が出来ます。

DD7LP さんの信号発生器の製作データは、全て GitHub で公開されていました。
公開名は「AD4351-PLL-Syntesizer-35-4400Mhz-DD7LP-2」です。(こちらは英語です。)
このページの解説に書かれている、製作に必要なデータを解説するリンク先の「http://www.darc-husum.de/Frequenzsynthesizer.html」は、リンクが切れていました。
インターネット・アーカイブの「Wayback Machine」でこのアドレスを検索してみました。
すると、2019年の履歴を見ることが出来ました。
リンク先で DD7LP さんは「私たちは、このプロジェクトの完成したソフトウェアを、作成者に帰属した上で、関係者が無料で非商業的に使用できるように喜んで提供します。このプロジェクトは DIY アマチュア無線を促進することを目的としています。」(Google 翻訳)と書かれていました。
製作に必要な全てのデータの公開に感謝します。
Kicad で作図
いつものように、KiCad で作図します。
前回、オリジナルから省略した電源レギュレータと高周波アンプ回路、10 MHz オシレータ回路を追加しています。
プリント基板は、現在のケースに入るサイズに収まりました。

プリント基板のオーダー
このプリント基板は、前回紹介した「LCD(PX1602)- I2C アダプタの製作」で使用したプリント基板と同時に PCBWay さんにオーダーしました。
PCBWay さんにプリント基板をオーダーする方法は、以下のリンクをご覧ください。
PCBWay さんの価格
今回、標準で選択される輸送方法を変更しました。
標準では DHL が選択されていますが送料は $29.21(約4,200円)と高価なので、輸送日数が同じ(2~4日)OCS $9.77(約1,400円)、こちらを選びます。
オーダーした品目は、プリント基板製作代 $5 とメタルマスク製作代 $10、送料が $9.77 と手数料に $1 が加わり、$25.77 ですが、初回割引が適用できれば -$5 なので $20.77(約3,000円)になります。
メタルマスクを頼まずに基板だけなら $10.77(約1,500円)なので、少し高めのランチ代ぐらいです。
このぐらいのサイズのユニバーサル基板は1枚100円以上はするので、加工されたプリント基板が1枚で150円なら激安ですね。
オーダーから到着まで
オーダーすると、2日ほどで基板とメタルマスクの製造が完了しました。
中国の工場から出荷された荷物は中国の税関を通過し、航空便で日本に到着後に国内の税関検査が終了して、佐川急便で東京から北海道まで届きました。その間、4日ほどなので今までで最短でした。
製造日数と合わせて合計で6日ですね。
今回、PCBWay さんのユーザー登録では、登録住所に日本の郵便番号と日本語で住所が登録できました。
他の海外便では日本国内の税関検査から自宅までの輸送に1週間以上かかっていたので、荷物に書かれた住所が日本語ではなかった事も影響しているのかもしれません。
荷姿
プリント基板などが到着した時の荷姿です。
佐川急便で届きました。
箱に傷もなくキレイな状態で届きました。
DHL は取り扱いが丁寧なイメージですが、今回利用した OCS + 佐川急便は安価で、同じぐらい迅速でキレイに荷物が届きました。

箱の内部です。
しっかりと梱包材に包まれて送られてきました。(写真は、梱包材を取り除いた状態です。)
(今回、送料を節約するために、2種類の基板とメタルマスクを1度に注文しています。)

内容品
基板は、しっかりと梱包材に包まれてシールされた袋に入っています。
メタルマスクは、曲がらないように2枚の板に挟まれていました。


基板です。
今回は極小の部品は使っていませんが、注文どおりにキレイな基板が届きました。
文字の印刷もネジ穴の加工も指定どおりに仕上がっており、この値段なら次回もオーダーしてみようと思いました。
しかし、良く見ると私の設計が良くなかったなと後悔した部分がいくつかあります。

製作
到着したプリント基板には、いくつかの間違いがあったので組み立て前に修正します。
基板の間違い
基板を受け取って最初の確認の際に気づいたのですが、DC ジャックを手持ちの特殊な形状の物を使う設計にしたら、一部穴の位置がズレていたのでドリルで穴を広げました。

2つ目の修正は、高周波アンプ部の電源にスイッチを付け忘れていました。
高周波アンプは常に使用するわけではないのに、結構な消費電流なので通常はオフにしたいです。
また、RF アンプ入力の SMA コネクタ(J3)の信号線がグランドに落ちていました。
この2か所は、後ほどパターンをカットしました。
高周波アンプの解体
今回の信号発生器の高周波アンプ部は、素人には難しい RF 回路の設計を動作確認が取れている市販の高周波アンプ基板から部品を取り外して使います。
以前、おじさん工房さん設計の周波数カウンタ RFC-5 でも使った高周波アンプ基板です。

シールドを半田ごてで温めて取り外します。

この後の写真を撮り忘れましたが、SMA コネクタを半田ごてで加熱して取り外した後に、ヒートプレートで加熱して部品を取りました。
自宅リフロー
今回も、メタルマスクを注文したので、クリームはんだの塗布は簡単に終了しました。
クリームはんだを塗布した基板に、部品を乗せます。
(高周波アンプ部の IC だけではなく、周辺のコンデンサなども再利用しています。)

安価(500円位)で購入したヒートプレートで加熱します。
リフローは、今回も簡単に終了しました。

その他の部品の取り付け
表面実装の部品は取り付け終わったので、その他の部品を実装します。
後は、Arduino NANO を半田付けして終了です。

以前のユニバーサル基板
以前、ユニバーサル基板で製作した信号発生器の回路です。
この基板に接続していた LCD やスイッチ類、Arduino NANO は再利用します。

LCD
液晶表示部です。
aitendo で入手した LCD で、型番は「M018C7735S」、サイズは 1.8 インチです。
基板上のジャンパで電源を 5 V と 3 V に切り替え出来ます。今回は J2 ショートで 5 V で使用しました。
「D_LED」端子をグランドにつなぐとバックライトが点灯しますが、ちょっと明るすぎるので 100Ω程度の抵抗を入れました。
(他の LCD を使う場合は、コントローラ IC に ST7735 を使用していて、解像度が 128 X 160 ドットで、インターフェースが SPI の LCD なら使用可能だと思われます。)
aitendo LCD に端子を付けました。
バックライト LED 用の抵抗は写真撮影のために出ていますが、この後、絶縁しました。

ロータリーエンコーダ部
ロータリーエンコーダ基板です。
基板上に SMD のコンデンサを使ったのでコンパクトに出来ました。
このロータリーエンコーダは、軸に押し込み式のスイッチが付いています。

ケース・パネル
ケースのフタは 3D プリンタで作りました。
すでに数回、同じようなフタを作っているので、簡単に出来ました。

組み立て
フタ部分に、ロータリーエンコーダ基板と LCD、電源スイッチを取り付けます。

プリント基板の完成写真です。(高周波アンプの電源スイッチは、まだ未装着です。)
この基板の上に ADF4351 評価基板を載せると基板部は完成です。

完成した基板部にフタの配線を接続します。

出来上がった部品をケースに収めて完成です。

高分解能周波数カウンタ RFC-7 で、出力を測定してみました。
(このカウンタの測定上限は 3 GHz 程度です。)
新しいプリント基板でも、ちゃんと信号が出ていることが確認できました。

Arduino 用スケッチのコンパイル
前回の製作記事でも記載していましたが、この周波数カウンタ用のプログラムを書き込む際の注意事項を再掲します。
この周波数カウンタの製作に必要な各種データは、GitHub に公開されていますが、2017年の情報です。そのためか、現在の最新の Arduino IDE で GitHub で公開されているスケッチをそのまま使用するとエラーになります。
このエラーは、当時とは異なる最新のライブラリを使用している為だと思われます。
以下の「Wayback Machine」で保存されている2017年7月版の圧縮ファイル内に、当時のライブラリが同梱されたファイルがあるので、このライブラリを登録すると最新の Arduino IDE v.2.3 でも、エラーなくコンパイルできました。(Linux 版 Arduino IDE で検証済み)
「https://web.archive.org/web/20190909215536/http://www.darc-husum.de/Projekt%20ad4351%203-17%20fertig.zip」
具体的に圧縮され同梱されているライブラリは、以下のとおりです。
ライブラリ名 | 年月日 | 備考 |
ACROBOTIC_SSD1306-1.0.1 | 2017.3.31 | |
Adafruit_QDTech-master | 2014.3.22 | |
Adafruit-GFX-Library-master | 2016.8.23 | |
Adafruit-ST7735-Library-master | 2016.5.27 | |
Rotary-master | 2013.10.13 | |
SD-master | 2016.5.27 | 使用しない? |
DD7LP 周波数シンセサイザの操作方法
この信号発生器は、電源を入れるとプリセットされた「144.9 MHz」で動作が開始されます。
初期画面の信号レベルは「-4 dBm」で、周波数ステップは「10 kHz」になっています。
1 ADF4351 が指定した周波数にロックすると「LOCK」と表示されます。
2 オシレータが内部発振だと「REF.int」と表示されます。今回は基準周波数切替回路を組んでいないので、表示は固定です。
3 出力レベルです。ステップ切替エンコーダのスイッチを押すと「-4」「-1」「+2」「+5」の順に切り替わります。
4 周波数増減のステップ数です。ステップ切替エンコーダを回すと10 kHz、100 kHz、1 MHz、10 MHz、100 MHz、1 kHz の順に切り替わります。最小ステップは IC の制限で 1 kHz です。
5 出力周波数です。周波数エンコーダを回すとステップ数で設定された値毎に増減します。
また、周波数エンコーダのスイッチを押すとプリセットされた周波数に切り替わります。
プリセット周波数は、144.9 MHz に始まって 432.9 MHz、1296.9 MHz、2320.9 MHz、3400.9 MHz、2880.4 MHz、3456.3 MHz、3435.5 MHz、4277.1 MHz、35.0 MHz、50.1 MHz と切り替わります。

まとめ
以前に比べて専用のプリント基板に交換することで、安定して動作する広帯域な信号発生器が製作出来ました。
非常に使いやすい信号発生器を製作するために必要な全ての情報を公開して下さった「DD7LP」さん、ありがとうございます。
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