「RA4M1 テストボードなの。」のプリント基板の配線を、なんとか手動で完成できました。
やはり、自動配線(オートルータ)では無理なことも多いようです。
すでに、チェスや将棋の勝負ならば、素人が電子的な機能(AI的な物)には勝てないです。
しかし、特定機能の領域では、まだまだ素人でも人間の能力の方が上なのですね。
Nano サイズの小型ボード「RA4M1 テストボードなの。」の基板を自動配線して失敗した詳細ついては、前回の記事をご覧ください。
プリント基板を手動で配線
すでに配線図は出来ていますが、オートルータで配線をつなぐことが出来ないものを、私のような素人が配線できる自信がなかったので、簡略化するために、
・USB 保護用のダイオード2個を省略
・Arduino UNO R4 に付いているフィルタ2個を省略
・配線間隔は、KiCad 標準の 0.2 mm
・VCC も GND 配線も他の配線と同じ 0.2 mm
という設定で「簡易バージョン」でやってみました。
「簡易バージョン」の配線
少し込み入ったパズルを解く感じでしたが、1時間ほどで出来ました。
(やればできるじゃん!)
こんな感じです。
(まだ、ベタ GND などの設定はしていません。)
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/O10.jpg)
MCU 部分の配線は大変込み合うので、基本的には表側(赤色)の配線を横軸、裏側(青色)の配線を縦軸に統一して配線を進めます。
KiCad の PCB エディターでは、配線でつなぐべきところは、薄い青い線で教えてくれるのですが、全ての薄い青は結線できました。
ちゃんと出来上がっているか試験します。
「検査」の「デザインルールチェッカー」で確認します。
あれ?未配線が残っていますね。
配線図も確認してみると、間違っているところも見つけました。
修正すると、さらに未配線箇所が増加しました。
どうやら、配線間隔が 0.2 mm では、色々と省略した「簡易バージョン」にして手動配線でも、すべてをつなぐのは無理なようです。
設定を変更してみます。
配線幅を 0.1 mm へ変更
設定を変更します。
・配線幅と配線間隔の両方を 0.1 mm へ
・全ての配線幅が 0.1 mm では電源周りが心配なので、+5 V と GND ラインは太めにする。
・省略した保護ダイオードは基板に戻す
・省略可能と思われるフィルターは省略する
では、頑張ってみます。
趣味の時間には、KiCad の配線だけをやっているわけではないので、少しずつ進めて2日間ほどで出来ました。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/O11.jpg)
今までの部品配置では、USB コネクタの横に2つの水晶振動子を置いていましたが、保護用ダイオードを設置するために、クロック関係は MCU の右側に移設しました。
それに合わせて、クロック関係の配線を最短とするためにMCU を回転しました。
配線間隔が 0.1 mm なら、なんとか全ての配線をつなぐことが出来ました。
でも、少し時間を置いて見てみると、まだ余裕がある感じがしてきました。
明らかに、 MCU の外側の配線は標準の 0.2 mm で引けそうです。
さらに、 MCU 端子内の配線ももう少し太くできそうです。
もう少し頑張ってみます。
配線幅だけを 0.15 mm へ
基板をオーダーする場合に、配線幅によっても価格が変わってきます。
例えば、最近利用している PCBogo さんでは、こんな感じです。
配線間隔 | mm | 価格 | 日本円 |
3 mil | 0.0762 | $79 | 12,800 |
4 mil | 0.0101 | $74 | 12,000 |
5 mil | 0.127 | $ 5 | 800 |
配線間隔が 4 mil と 5 mil では、基板製作代金が1万円以上の差が出ます。
これだけの差があるのならば、がんばって配線間隔を 5 mil(0.127 mm)以上にしたいところです。
そこで、まずは配線幅だけを 0.15 mm に変更します。
苦労すると思ったら、簡単に変更できました。
参考のために Arduino cc から落としてきたオリジナル Arduino Nano R3 の基板データにはありませんでしたが、一応、ベタ GND も設定して、KiCad の「検査」、「デザインルールチェッカー」で確認しましたが、エラーはありませんでした。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/O13.jpg)
配線間隔も 0.15 mm へ変更
仕上げです。
上では配線幅だけを 0.15 mm にしました。
これは簡単に出来ました。
次に、配線の間隔も 0.15 mm に変更します。
試しに、配線間隔を 0.15 mm に設定して、何の変更もせずに「検査」の「デザインルールチェッカー」で確認したら、100か所以上のエラーが出ました。
ちまちまとエラーを1か所ずつ直していきます。
これには時間がかかりました。
1つのエラーを直すためには、他の沢山の配線を少しずつ動かす必要があったのです。
数日掛けて、やっと完成しました。
(昔、大きなジグソーパズルを完成した時を思い出しました。)
一応、配線が完了したので、基板の端子部分は半田付けで配線が痛む可能性を考えて、ティアドロップを設定してみました。(プラグインを導入すると、ティアドロップが簡単に設置できました。)
ティアドロップを設定しても、配線間隔のチェックにエラーは出ません。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/O12.jpg)
基板の最終確認
今回の Arduino Nano サイズのボードに RA4M1 MCU を乗せる「RA4M1 テストボードなの。」プロジェクトを始めるときに、使用する部品を設定しました。
使用する部品は、基本的には Arduino UNO R4 などに搭載されているものを無条件に採用しました。
ところが、実際に通販で入手可能なメーカの在庫を見てみると、その型番の部品が見当たりません。
特に水晶振動子は、汎用的に入手可能な物に変更しないといけないようです。
そこで、入手が容易な部品に変更したバージョンの基板を作図します。
(この後に出てくる情報は、「MOUSER ELECTRONIC」で調べました。「DigiKey」でも調べたのですがエラーが出て検索できませんでした。)
合わせて、余白が確保できれば配線できなかった MCU の重要な端子を、何とか外に出せないかも検討してみます。
使用する部品の再確認
現在の「RA4M1 テストボードなの。」で使用する部品は大変少なく、以下の一覧表のとおりです。
SMD の抵抗、コンデンサ、LED を除くと6個の部品しか使っていません。
この後で、個別の部品を確認します。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/Nano-R4-1.jpg)
RA4M1
メインの部品である「RA4M1」、正式名称「R7FA4M1AB3CFM#AA0」は、ネットの部品メーカでは1個 1,000円程度の価格です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/R7FA4M1AB3CFMAA0.jpg)
ルネサス社で直接販売もしており、こちらでも1個 $6.18 なので、約1,000円ですね。
(販売のリンクをたどっても見つかりませんが、MCU の型番から行ける購入のリンクでたどり着けます。)
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/R7FA4M1AB3CFMAA0-2.jpg)
USB コネクタ
USB コネクタは、形状は USB Type-C ですが、端子数が非常に多い USB 3 ではなく、USB 2 のコネクタを用います。これは、純正の Arduino UNO R4 や互換機も同じです。
しかし、このタイプの USB コネクタは色々なメーカから出ていて選択に悩みます。
そのなかでも、ケースを固定するピン2本あり、基板を貫通するタイプで入手性の良さそうな「2479774-1」を使用します。1個 109円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/2479774-1.jpg)
12 MHz 水晶振動子
ルネサス社では、 MCU 用の推奨する水晶振動子の資料「メインクロック回路、サブクロック回路のデザインガイド」を公開しています。
しかし、リストに出ている村田製作所の HP では(一般向けには)12 MHz の水晶振動子は販売しておらず(セラロックなら入手可能です。)、セイコーインスツルメンツの水晶振動子は大きい物しか見つかりません。
ネットで見つけた入手性の良さそうなものは、KiCad の中で標準で入っている部品と端子の配置が異なります。
型番は「ABM8-272-T3」で1個 87円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/ABM8-272-T3.jpg)
32.768kHz(RTC 用)水晶振動子
上でも説明した「メインクロック回路、サブクロック回路のデザインガイド」では、2種類の RTC 用の水晶振動子が出ていますが、サイズが大きすぎます。
そこで、誤差が少なく入手性の良さそうな
「ECS-.327-6-34R-C-TR」を選びました。1個 103円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/ECS-.327-6-34R-C-TR.jpg)
+5 V レギュレータ
+5 V を供給するレギュレータ IC には、「LM1117IMPX-5.0」を使用します。
1個 207円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/LM1117IMPX-5.0.jpg)
回路保護用のダイオード
純正の Arduino UNO R4 の回路図に記載されている保護用のダイオードは2種類使われています。PRTR5V0U2X と PMEG2020EJ です。
これは、ネットに出ている部品屋で普通に入手できそうです。
MOUSER で「PRTR5V0U2X」は1個 63円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/PRTR5V0U2X.jpg)
「PMEG2020EJ」は、1個 38円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/PMEG2020EJ.jpg)
リセット・スイッチ
リセット・スイッチは、良くある SMD のタクトスイッチです。
型番は「EVQ-P2602W」で1個 86円です。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/05/EVQ-P2602W.jpg)
SMD コンデンサ
コンデンサは、12個使用していますが、全て SMD の 0603 タイプ(長さ 0.6 mm、幅 0.3 mm)を使います。
単価は 10円程度でしょう。12個使っているので 200円ぐらいでしょうか。
SMD 抵抗
抵抗は、16個使用しています。こちらも SMD 0603 を使います。全部で 200円位です。
SMD LED
LED も SMD 0603 タイプを4個使用します。
1個 50円として合計 200円です。
部品の合計予想金額
部品代の予想合計金額は、2,293円でした。これに基板のオーダー代金が加わります。
(UNO R4 互換機の完成品(1500円程度)と比較すると、結構かかりますね。)
項目 | 価格 |
RA4M1 | 1,000 |
USB | 109 |
12M | 87 |
32.768kHz | 103 |
LM1117 | 207 |
PRTR5V0U2X | 63 |
PMEG2020EJ | 38 |
SW | 86 |
コンデンサ | 200 |
抵抗 | 200 |
LED | 200 |
合計 | 2,293 |
追加したい端子
このプロジェクトを始めた時に、Arduino Nano サイズに Arduino UNO R4 の機能を乗せるために各端子の機能を調べて、可能な限り全ての機能が発揮できるように配置しました。
(こちらが、Nano サイズで搭載予定の端子一覧です。)
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/04/N18-1.jpg)
しかし、いくつかの端子は現在の所、搭載できていません。
こちらが、MCU から外に出せていない端子のリストです。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/04/N22-2.jpg)
この中でも、
MCUピン | No. |
49 | P500 |
50 | P501 |
51 | P502 |
これらの3つは、「SWD(デバッグ用インターフェース)の送受信端子」と「14 ビットA/D コンバータ(ADC14)」、「SLCDC(セグメント LCD コントローラ)」機能に使われる端子なので、何とか外に出したいですね。
(MCU ピン番号:49 は、すでに分圧抵抗用に配線済みなので除きます。)
クロック関連回路を右側に移動したおかげで、多少の余白があるので、端子だけでも出せないかやってみます。
改修型の基板
水晶振動子の交換
いままでは KiCad に元々入っていた水晶振動子のデータを使って基板を作っていました。
しかし、汎用品だと思っていた水晶振動子と同じものをネットの部品屋さんで探しても、今のところ見つけられずにいます。
仕方がないので、同じぐらいのサイズで誤差の少なそうな物を「MOUSER ELECTRONIC」で調べました。
しかし、端子の配置が KiCad 内蔵の物と異なるので、基板データを修正しました。
端子の追加
SMD 0603 の端子サイズのパットなので、手半田がやっとのサイズですが、なんとか基板上に増設してみました。
端子を配置する場所がないので、裏側になってしまいました。
小さな端子になってしまいましたが、直接 MCU の細かな端子に半田付けするよりは何倍も楽ですね。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/06/O21.jpg)
完成したボード
KiCad 上ですが、Arduino Nano サイズで RA4M1 を MCU にした、Arduino UNO R4 のスケッチがそのまま動く(はずの)基板のデータが出来ました。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/06/O22.jpg)
KiCad では、3D データも見られるので、これを見るだけで完成したと勘違いしてしまいますね。
表面です。(RA のロゴはルネサス社より引用)
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/06/O23.jpg)
裏面には、名前も入れてみました。
いつのまにか、KiCad は日本語のフォントにも対応していました。
![](https://me-yoh.com/wp-content/uploads/2024/06/O24.jpg)
今後の予定
これで、「RA4M1 テストボードなの。」という名前の冗談のようなプロジェクトは、本当に KiCad でプリント基板のデータを作るところまで出来ました。
この後は、いつでもプリント基板製造メーカにオーダー出来ます。
しかし、基板を完成させるには1枚につき3千円以上、10枚試作すると3万円程度の費用が必要です。
さらに、細かな端子の MCU を含めた部品を素人の「自宅リフロー」で完成させる自信がありません。
そこで、未経験の「部品実装」を頼むとどうなるのかを検証してみたいと思います。
部品代は市販価格より高いのか?
実装をオーダーすると、どの程度の費用が掛かるのか?
まず、素人が作った少量のプリント基板に実装してくれるのか?
色々と疑問に思うところがあります。
じゃあ迷っていないで、それ、やってみよう!
コメント
今頃になってコメント入れてすみません。
可能ならピン名のシルクを表側にも入れると使い易くなると思いました。D5-D8とA1-A4はスペースが無いので無理っぽいですが、ここは連番になっているので前後から推定出来ます。
あと、せっかく基板を作られるなら回路図を見やすい状態で公開すると参考になる意見が付くかも知れません。ちなみに現状だとほとんど読めません。
もちろん全部無視していただいてかまいません。
こんな「実現できるか分からない趣味のような」記事を読んでいただき、ありがとうございます。
回路図やシルクなどを大きく写していないのは、自信のなさですね。
確かに、今見てみると、裏側の名前でうるさいシルクに比べると、表側のシルクは寂しい感じですね。
次回は、もう少し詳しい資料を分かりやすく公開したいと思います。
(実際は、外部クロックが付いた、純正 Arduino Nano R4 の発売が待ち遠しいのですが。)